ある旅人の〇〇な日々

折々関心のあることや読書備忘を記録する

読書録:十津川警部「オキナワ」

2006年03月30日 | Weblog
西村京太郎の十津川警部シリーズものである。十津川警部「オキナワ」(2004年、光文社カッパ・ノベルス)。
この本、帯が立派である。その帯に「第8回日本ミステリー文学大賞!」と書いてある。このミステリー小説がその受賞作ではない。日本のミステリー文学に貢献した作家が毎年表彰されているようである。著者がそれを受賞した年に発行されたから、そのようなキャッチを使ったのだ。第8回ということは、ミステリー小説の大御所のなかで8番目の作家ということであろうか。
さらに、帯に「著者のことば」として、沖縄の取材が5度目であり、二つの沖縄を感じると書いている。すなわち、美しい海と大らかな人情がいつもと変わらない沖縄、そして米軍基地のある沖縄。この小説では、後者の沖縄を浮き彫りにするため、タイトルに「オキナワ」が使われているのである。

ストーリーは、取材した割にはお粗末である。東京巣鴨駅前の安ビジネスホテルの部屋で中年男の他殺体が見つかった。血文字のダイイングメッセージが部屋の床に書かれていた。シャーロックホームズの古典的なミステリーみたいで、かえって新鮮に感じてしまうが。その文字は片仮名で「ヒガサ・」というもの。
ここで十津川警部が登場し、その文字から「比嘉」という沖縄の名字を推理する。死体に盲腸の手術痕があったので、沖縄県警に照会したら、その男の身元が分かってしまう。トントン拍子である。十津川は沖縄に飛ぶのだ。「ヒガサ・」が「比嘉さきこ」であることもわかる。比嘉さきこの妹が比嘉みどりで、彼女と協力して事件を解決してしまう。彼女は旅行代理店のガイドをやっているので沖縄の名所のあちこちを読者に案内までしてくれる。十津川シリーズではブルートレインなど列車が舞台によく使われるが、沖縄のモノレール「ゆいレール」がしっかり使われている。犯人が車両の窓からバッグを投げるシーンが出てくるのだが、あの車両の窓は開けられただろうか?
沖縄の伝統的家屋の屋根が赤煉瓦であると書いているのだが、あれは赤瓦なんだよ、京太郎先生。それにソーキそばの説明で文字数を稼がないでくれ。

行方不明の比嘉さきこは、生きていた。米軍基地からまだ使える廃棄銃器の横流しに関わっていたのだ。その組織から抜けたがっていたので仲間の戸田と米軍人に殺されてしまう。戸田も基地内に逃げ込む。地位協定で基地内には手が出せない。運良く、基地内で食中毒がおこり、戸田も発病し、基地から連れ出すことに成功して目出度し目出度し。

暇な時間をつぶすのにもってこいの作品である。
京太郎先生、本当に取材やったのだろうか。沖縄までモノレールに乗りに行っただけだろう。
京太郎先生の沖縄を舞台とした作品では、「幻奇島」と「海の挽歌」がある。前者は、離島舞台の民俗的ホラー推理小説で、取材・文献調査にも時間も金もかけているようで結構楽しませてくれた。後者は、地位協定で罪を免れた米軍人に復讐するというもので、これも楽しめた。だが、今回の作品は、手抜きが感じられる。もう、京太郎さんの時代は終わった。

追記:
ゆいレールの客室窓について沖縄都市モノレール株式会社に問い合わせたら下記のような返事をいただいた。
京太郎先生、バッグを窓から投げ落とすのは難しいようだよ。いい加減なこと、書かないようにして欲しい。
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いつも、ゆいレールをご利用頂いてありがとうございます。
問い合わせについてお答えします。客室窓の上部の部分が内側に開きますが、わず
かな隙間しか開きません。モノレールが高所を走行しているため、窓から物が落ちる
のを防ぐためです。
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3月31日

スポーツ愛国主義とイチロー

2006年03月22日 | Weblog
WBC一次リーグ戦前に、イチロー選手が「30年は日本にかなわないという勝ち方をしたい」と発言したら、韓国メディアだけが過敏な反応で報道して、韓国民に愛国心を煽った。韓国が一次・二次リーグで日本に勝って6連勝したので韓国メディアは連日、「勝った!勝った!勝った!」でさらに愛国心をひとつに束ねた。加えて韓国政府の選手への兵役免除決定も拍車をかけた。これをスポーツ愛国主義と書いている日本のマスコミ記事もあった。
二次リーグで、韓国が日本を破ったときは、韓国選手がピッチャーマウンドに国旗を掲げるほどの喜びようだった。少しアブノーマルな行動だった。イチロー選手が連敗したことで「野球人生で最も屈辱的であった」と発言した。
しかし、米国がメヒコに破れて、棚ぼたのように日本は1勝2敗で準決勝に進み、三度韓国と戦う羽目になった。サンディエゴの球場は韓国人の観客で溢れたように応援がすごくて、イチローへのブーイングがかなりあった。韓国では、ソウルの街の広場に1万人以上も集まって一緒に熱狂的に応援していた。日本は僅差で2敗しているのでそれほど両チームに力の差はない。準決勝では上原の好投もあり、6対0で圧勝した。韓国メディアと韓国人は急にトーンダウン。韓国代表監督は「日本チームのほうが質が上だった」と言っていた。韓国選手も「精神力の差で負けた」と発言した。韓国民は、「日本が運が良くて勝っただけだ」と負け惜しみ。「ワールドカップではリベンジして欲しい」という発言も。韓国民の愛国心を煽った祭りは終わった。

このWBC、イチローが目立った。日の丸を背負って戦うことに意義を感じていたし、いつも冷静なイチローが感情を露わにしていた。積極的に参加してリーダー的役割を果たしていた。イチローを見直した人も多かったと思う。松井に人気を奪われがちで、嫌う人も多かったが、これで人気を盛り返したであろう。

以前、このブログで愛国心について書いたことがある。「愛国心には二種類あって、ひとつは政治・経済・軍事・スポーツなどで他国よりも勝って欲しいと思うこと、もうひとつは歴史や郷土に愛着をもつことである」と。前者がエスカレートすると醜くなる。今回の韓国のスポーツ愛国主義は、それに近いものがあった。昨年の支那の「愛国無罪」の暴動もそうである。
ちょうど手元にある「ライオンと一角獣」(ジョージ・オーウェル著)に愛国心について次のように書かれている。
「人は愛国心、民族的忠誠心の持つ圧倒的な力を認めないかぎり近代世界を正しくとらえることはできない。それはある状況のもとでは崩壊し、さらに文明がある水準に達すると存在しなくなるが、しかし現実的な力としてそれに比肩しうるものはない。キリスト教や国際社会主義もそれに比べれば藁ほどの力も持たない。ヒトラーやムッソリーニがそれぞれの国で権力を握った理由の大半は、彼らはこの事実をとらえていたのに対して、彼らの反対者たちはそれをとらええなかったことにある。」
韓国や支那は、そういう意味では未だ文明発展途上なのかもしれない。でも、愛国心は利用されると怖いのである。