GOODLUCK'S WORLD

<共感>を大切に、一人の男のスタンスをニュース・映画・本・音楽を通して綴っていきたい

「メンターを探せ!」(9)「幸福を招く人生のキーワード <誠実>と<素直>」(上)

2012年05月20日 | Weblog
 最後の職場に高校生で、海上保安庁や地方公務員(警官)を目指しているとても清々しい少年が入ってきました。私は今時珍しい硬派のT君がとても好感を持ちました。彼の進路を聞いていたので、持論の新解釈「ウサギとカメ」の話を理解できるようにじっくり2回も話しました。夢のようなことを考える前に、少し努力をすれば達成できる目標を立て、達成し続ける自律力を磨く大切さを指導してきました。私の言葉が今、100%理解できなくても30歳を過ぎて大人の仕事を始めた頃、真の意味がわかってくれると信じられる若者だと思っていました。

 その彼に日本の弱腰外交や、米国の51州目と言われる日本、中国の脅威等を背景にした沖縄を舞台にした超硬派物語、福井晴敏の『トゥエルブY.O』(第44回江戸川乱歩賞受賞作)という大好きな本を貸したのです。
 沖縄から米国海兵隊を撤退させた、たった一人の日本人テロリストとの攻防を描く、読んでいて今まで経験したことがないほど熱くなった作品でした。日本の国やこの国を守るとする仕事を目指す、彼に読んで欲しかったのです。貸したのは退職を決める前の事でした。ところが、T君はその本を一年かかっても私に返そうとしないかったのです。同じ作家の『亡国のイージズ』を読めた彼だから決して難解で読めない本ではないと私は判断していました。
 
 私は「読んだか?」「そろそろ返せよ!」と10数回、彼に返却を迫りました。しかし、彼は「試験が近いので…」「まだ、最後まで読んでないので…」等の返答で、私が数ある本の中から何故、あの作品を選んだのか、その誠意を読み取ってはくれませんでした。それは読まなかったためだと判断しています。送別会にも彼は来てくれましたが、本の返却はありませんでした。
 退職日にも、「ありがとうどございました!」と言って返してもくれるものだと思っていましたが完全に裏切られました。
「彼に読ませたい」という私の一人よがり(=誠意の押しつけ)だと自覚していましたが、少なくとも少しは尊敬されていると判断していた私の驕りが、判断ミスをしたのです。読もうとしていない本を(無理矢理)手渡されたことが起因してことが今回の発端だと私なりに反省もしています。しかし、今までに何人か有望な少年・少女にきっと気に入ってもらえるだろうと、古本屋やネットで探し、ない場合は新刊を買って貸して、裏切られた思いは一度もありませんでした。それだけに今回の私の落胆は、非常に大きかったのです。

 私は高校生だった頃から彼の性格を分析できていると自認していた。しかし、結果として完全に裏切られてしまったのは、T君が予想していた以上に子供だったのです。私は冷静に戦略を練った。そして、私の怒りに対してT君が恐怖心を覚えるほど、罵倒したメール送りました。
 そして、最後に「お前のメールや携帯電話にはでるつもりはない! お母さんから私に電話してくれるように、メールを見せて私の怒り心頭状態を伝えろ!」とメールで送りました。

 しかし、お母さんかも連絡はありませんでした。お母さんは私が責任者をしてた料飲部門ではないが、同じ会社のフィットネス部門で現在も働いています。私は元会社に電話を入れ、彼女の携帯番号を教えて貰おうとしました。
 電話を取ったのは運良く、何度かぶつかって泣かせたこともありますが、女性社員の中では最も私を理解してくれていると信じているM子さんでした。以前から最も忙しい仕事を背負っている彼女は、それでも時間を割いて私の話をじっくり聞いてくれた。私は何としてもT君に大切な誠実さを理解させたいがためのカラ怒りだと説明しました。
 するとM子さんはお母さんから私とT君の異常な状態を聞いていたらしく、お母さんは、「今後の対応は西岡部長と、息子の問題です。私は関係がない。息子に最後まで対処させます」と話したということでした。

 私はその言葉を聞いて、携帯を手にしながらニンマリしてしまいました。あの子をあそこまで育ててきたお母さん、しっかりしたお母さんだという最初からの直感は間違いではなかったと思わず、微笑んでしまったのです。
 お母さんは私の直接の部下ではなかったので、じっくり話したことはありませんでした。しかし、「うちの子、部長の下でちゃんと働いていますか?」と尋ねる不安で真摯な気持ちは、豊かな母心と共に十分私に伝わっていました。
「はい、大丈夫ですよ。お母さんが思っている以上に彼はしっかりやってますよ、安心して下さい!」
こんな会話は何度か立ち話していました。(現場の楽しさはこんな時、感じるものです)

  
 私はT君からの本と謝罪文が添えて返されてくるのをワクワクしながら待つだけでした。翌日、本と謝罪文が届きました。
「誠実さを示すときは、素早さが大切だ」(グッドラッック●メンター) 

 謝罪文は見事すぎるほど誠意ある文面でした。私もあれだけの内容を書けないかもしれない、と思わせるくらい、手書きの見事な文章でした。当然彼一人で書いたとは思えません。90%親がかりに違いない。お母さんは、きっと何度も彼に書き直させたに違いありません。T君もネットを使って謝罪文の例文を参考に書いたのでしょう。私はとても満足したので下記の内容で、彼の努力を慰労しました。

 「子供の成長は、すべて育てる大人にかかっている」
                       (●メンター コミック浦沢直樹作「MONSTAR」より)

               
   1年以上たって、帰ってきた私の愛書


以下はT君にあてた手紙の一部です。

『人はあらゆるところで人を判断しなくてはなりません。わかりやすくいえば、「自分の味方か、敵かという判断」。違う表現をすれば、「誠実な人か、不誠実な人なのか」という判断です。この判断力が大海原を航海する水夫の羅針盤となるのです。このことをあなたにどうしてもわかってもらいたかったのです。だからあんな激しい怒りのメールを送ったのです。

 自分の部のスタッフは社員のFさんやYさんも含め、私のファミリーと同様に愛を込めて、応対してきたつもりです。実の息子もあなたと同じように親として、そして、人として接してきました。以前、S君やF君と何度もボーリングしたのですが、その時、いつも私は息子にもメールを入れて「来ないか?」と誘いました。来れるときは彼は喜んでやってきました。 大切なことは、「ボーリングが好きかどうか」であって、親父の会社の人間とはボーリングをしたくないなどと余計なことを考えるようでは、大切なことを見失ってしまうのです。でもそんな心配は危惧でした。

「大好きなボーリングに、親父がわざわざ誘ってくれている」それだけの単純な話を、様々な用件(恥ずかしい、初対面…)が頭に浮かび、考えた末、「NO!」というような若者が世間には多いのです。そういう意味では息子は上手く育ってくれたとホッとしています。

                                 (下)に続く  


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