日々の恐怖 8月7日 産科
緊急帝王切開で出産入院した時、2階3階の一般部屋は満杯で入れなかった。
そこの産科は、二人部屋と一般個室から選べる。
しかし、私は一般個室を希望していたが、空いていない。
二人部屋のベッド一つも空いていない。
仕方ないので、初日は1階の経過観察室のベッドで過ごし、二日目に、
「 一般個室料金で良いので、4階の部屋を利用して貰えますか?」
とお願いされた。
4階の部屋、そこはワンルーム並の設備、家具家電がおかれた特別個室だった。
家族も寝泊まり出来る様にか立派なソファベッドがあり、クローゼットには布団一式、システムキッチンやシャワー室、とにかく豪華すぎる部屋だった。
母子別室のため、夜はゆっくり休めると思った。
そこに移って三日目の夜だった。
うとうとしていると、廊下から男性の話し声が聞こえた。
“ 隣の特別個室の方の身内かな?”
と思ったが、何かがおかしい。
帝切の傷口が痛むがドアの前まで行き、耳を澄ます。
すると、奥から大人の泣き声が複数聞こえ始め、読経が始まる。
“ 不気味だし、疲れているのかな・・、気のせいだろう・・・。”
と、またベッドに戻り眠る。
私は疲れていると耳鳴りがしたり雑音が聞こえたりする体質で、ベースの音やエアコンの音がお経の様に聞こえたりするからだ。
それで、夢を見た。
引き戸を開き、和尚さんらしき人が廊下に出ていく。
喪服姿の人々がお礼を述べて見送る。
中の部屋は和室。
真ん中にベビー布団が敷いてある。
場面は一転する。
薄青色のつなぎの清掃員二人が、さっきの和室に掃除機をかけ、焼香台を片付けていた。
目が覚めたのは朝方だったが、もう汗だく。
やけにリアルな夢だった。
で、昼食前にドアをノックされた。
「 部屋のお掃除に来ました。」
薄青いつなぎを着た清掃員二人だった。
傷口が痛み、掃除の間はソファで横になろうと思ったが、
「 その体勢じゃキツイでしょう。」
「 埃も出るし、他の部屋でお休みになって下さい。」
と言われた。
“ 他の部屋・・・?
隣部屋は空いたのかしら・・・?”
と思ったら、エレベーター側からは見えない廊下に引き戸からあり、そこに案内される。
引き戸を開くと和室だった。
そこは、夢で見たままの和室だった。
パニックになりながらも体の為に横になってみたが、頭痛がして何故か涙まで出てきた。
清掃員が、
「 終わりました。」
と呼びに来てくれた際に、
「 あの和室も特別個室か何かですか?」
と聞くと、
「 あの部屋は時々集まりに使うだけで、部屋が満室でも泊まれないし、面会室でもないし、まあスタッフの会議室みたいな所です。」
との返事だった。
私が昨日聞いた声が間違えなかったとしても、
“ あとは完全に夢だよね?”
と思いつつ、凄く気味悪くて、不思議話としても今まで誰にも言えずにいました。
思い出す度、
“ 忘れよう!”
と反射的に拒否状態です。
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