満月と黒猫日記

わたくし黒猫ブランカのデカダン酔いしれた暮らしぶりのレポートです。白い壁に「墜天使」って書いたり書かなかったり。

『氷点』『続氷点』

2008-01-28 02:15:55 | 

皆様ごきげんよう。二週間でワイン6本、捨てに行った瓶を数えて反省しきりな黒猫でございます。

今日は先日ちょろっと書いた『氷点』『続氷点』(三浦綾子著、角川文庫)の感想を。
後半、かなりネタバレが多くなりそうなので、これから読むという方はご注意下さい。


昭和21年、北海道・旭川。
辻口病院院長、辻口啓造の妻・夏枝は、夫の留守に自宅を訪ねてきた医師・村井に恋情を告げられる。浮気するつもりは全くなかったものの、自分を賛美する村井の言葉が心地よく、もう少し話を聞いていたいと思った夏枝は、退屈して自分のところにやってきた3歳の娘、ルリ子を「外で遊んできなさい」と追い払う。しかしその結果、ルリ子は夜になってから無残に首を締められて殺された姿で発見される。
ルリ子がいない間に家に村井が来ていたのを察した啓造は、妻と村井の間で何かがあったことを邪推し、嫉妬にかられる。
表面上は妻を慰めながらも、自分を裏切った夏枝が許せない啓造は、「死んだルリ子のかわりと思って女の子を育てたい」という夏枝のために、乳児院から子どもをもらってくる。しかしその女の子は、実はルリ子を殺した犯人、佐石の残した娘だった(佐石は逮捕後自殺)。最も憎い犯人の娘を、そうとも知らずに育てさせることで夏枝に復讐しようと思ったのだ。

女の子は陽子と名づけられ、何も知らない夏枝と長男の徹に可愛がられてすくすくと育つが、陽子が7歳になった時、夏枝は偶然啓造の日記を読んで真相を知ってしまう。夏枝は逆上して、発作的に陽子の首を締めてしまうが、大事には至らなかった。その時から夏枝は表面上は優しく振舞いながらも、陽子につらく当たるようになる。
母が妹にばかりつらく当たるのを見て育った徹は陽子に同情し、同時に陽子が養子なのではないかとの疑念を抱く。そして両親を問い詰めた結果、その疑念は確信となる。その時から、徹は陽子を妹ではなく女性として愛するようになる。

一家の中で陽子が養子だという事実を知らないのは当の陽子だけと思われたが、実は陽子はよその家で自分の出自が語られているのを聞いてしまっており、既にそれを知っていた。そんな状態ながらも一家は表面上は平和に暮らしていた。
陽子が年頃になった頃、徹は思い切って自分たちに血のつながりがないこと、女性として陽子を愛していることを打ち明ける。陽子に「兄としてしか見られない」と答えられた徹は、陽子を諦めるために自分の親友・北原を陽子に紹介する。しかし一方、徹が陽子を愛していることを快く思っていない夏枝は、陽子を最も傷つける方法で出自をぶちまけてやろうと画策しており・・・?

というようなお話。(上記あらすじには『続』は含まれていません)


なんかもうとにかくドロドロです。

お父さんとお母さんの性格がなんだかもう。最悪の組み合わせです。
父・啓造はその父の代からの病院の院長で、世間的にはかなりの人格者と思われているんですが、実際にはすごく根に持つタイプな上に小心で、なかなか思ったことを実行に移せない人。母・夏枝はナルシストというか自分中心に世界が回っていると思っているような節があり、陽子イジメも「憎い仇の子を育てさせられてるわたしの身にもなってほしいわ」などと思いつつ罪悪感なしにやっているところがタチが悪いです。自分が正義だと信じきってるのは何故なのか。
啓造は陽子をもらってくる時に「汝の敵を愛せよと言うだろう、それを実践してみようと思うんだ」などと言って、自分の親友で乳児院担当の医師・高木を言いくるめるんですが、全然愛せていないまま十数年が経過します。どんだけ。しかも忙しいからか鈍感で、陽子がつらく当たられていることにあまり気づいていないんです。なんだこの夫婦。
頼みの綱の徹君は、陽子に告白して「そういう風には見られない」と言われたし、自分の親友を紹介してるにも関わらず、何故か婚約指輪のつもりでクリスマスプレゼントに指輪を買ってきます。ちょ、おま、断られたの忘れたのか。このへん誰も突っ込まないところが不思議でなりませんでした。
陽子は陽子で小公女せーラのごとく何をされても耐え忍ぶだけ。首を締められたことも口止めされたので誰にも話していません。いいのかそれで。

こんな聖人いないだろ、と思うんですが、この小説は「原罪」というテーマで一般公募されて選ばれたものだそうで、著者のキリスト教的な思想が強く現れているそうです。でもそんなの知らずに読んだわたしは陽子の聖人ぶりが何だか逆に怖いんですが。
ネットでちょっと感想を探して見ましたが、こんな感想を抱いたのはわたしだけのようで、ちょっと意外でした。まあ、感じ方は人それぞれですが。

で、『氷点』は紆余曲折の末「え?」というところで終わるんですが、『続氷点』は個人的にはもっと「え?」でした。

なんか色々ありまして、陽子の出自がバレた上に長年の誤解なんかが一気に明らかになるんですが、なんか知らないけどこの一家、その後も一緒に暮らしてるんですよね・・・お、おかしくね・・・?(※徹は大学のため家を出ている)よく一緒に暮らせるなあ。

それはともかく、『続』になってからは陽子の生みの親とその家族が微妙に関わってくるんですが、こっちの家族の達哉もおかしい。陽子にとっては弟にあたるんですが、陽子が姉だということを知らず、母に対する疑念を晴らすために陽子につきまとい、挙句の果てに事件を起こします。この人もおかしい。つか怖い。
そしてなんか色々あった末(こればっかですいません)、最終的に陽子が選んだ相手もわたしとしては「?」という感じでした。
なんというか、全体を通して陽子が異性に向ける気持ちというのはあまり描写されていないんですよね。『続』では何故かいつの間にか陽子が大学を出たら徹と結婚する、みたいな雰囲気になってるし(※本人に確認を取った描写なし)。なんだそれ。お母さん滅茶苦茶反対してたはずなのに「何なら学生結婚でも」って何だよ。意味わからん。

全体的には面白かったんですが、主人公であるはずの陽子にどうにも感情移入できない点が最後まで消えませんでした。というか、ぶっちゃけ登場人物で感情移入できる人がいなかったかも。
いちいち登場人物の心情を推し量るとか、そういう読み方をする本じゃないのかも。でもわたしは基本そういう読み方をするので・・・。

あと、本筋とは全く関係ありませんが、啓造と高木などの医師仲間でいちいち結婚のことをハイラーテンと言ったりお母さんのことをムッターと言ったりするのが何とも違和感アリアリ。ドイツ語?よくわかりませんが、団塊世代の人が奥様のことを「うちのワイフ」とかいうような感覚でしょうか。素直に日本語喋れ。

ともあれ、日頃読まない感じの作品だったので、印象は強く残りそうです。


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