天地を 照らす日月の 極みなく あるべきものを 何をか思はむ 

わびぬれば 今はたおなじ 難波なる みをつくしても あはむとぞ思う

RNA分子が化学反応を触媒

2012年01月16日 | 科学
 一般にウイルス単独では増殖できず、感染させる生物(宿主)のタンパク質を利用し初めて増殖する機能を持ちます。この、生物と無生物の間のような存在のウイルスから、最も原始的な生命の姿が垣間見えるような研究成果が発表されました。~産総研

 ウイルスと生物とが決定的に違うのは、ウイルス単独で代謝、増殖できないことです。通常、生物が増殖する時にはDNAも複製され、娘細胞にも同じDNAが引き継がれます。DNAはアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)(RNAの場合はウラシル(U))の4種類の塩基が並んでできた生命の設計図です。アデニンにはチミン/ウラシル、シトシンにはグアニンが必ずペアになることを利用して1つのDNA/RNAを鋳型としてコピーが作られます。このコピー作業は、細胞が自己の複製を作るときはもちろん、遺伝情報を読み出して(転写)タンパク質を作るときにも、なくてはならない作業です。この生命にとって最も基本的な作業は、多くの種類の酵素と呼ばれるタンパク質が、それぞれ分業で担当しています。ところがウイルスはこれらのタンパク質を自身では持たず、宿主の酵素を利用して自らの遺伝情報をコピーしています。

 翻訳因子は全ての生物に存在し、タンパク質の合成に必須のタンパク質である。今から40年近く前の1970年代初頭、大腸菌由来の翻訳因子と呼ばれるタンパク質が、大腸菌に寄生するQβウイルスのRNA合成に必要であることが報告されました。翻訳因子とは、遺伝情報の翻訳、つまり、遺伝情報をもとにアミノ酸をつないでタンパク質を合成する過程で働くタンパク質群です。翻訳因子が、本来の仕事とは全く違う「自身に寄生したウイルスのRNAのコピー」という仕事に必要であるということは大変な驚きでした。しかし、翻訳因子がどのように、本来の仕事とは違う作業を行なっているのかは、長い間謎となっていました。

 RNA分子が化学反応を触媒する機能を有していることが発見され、太古生命体では、生命体を構成する分子はRNAであり、RNA分子が遺伝情報の保存分子であり、かつ化学反応を触媒する酵素であったとする「RNAワールド仮説」が提唱されています。長い年月を経て、RNAの遺伝情報の保存分子としての役割が化学的に安定なDNAへ、そして、RNAの酵素活性の役割がタンパク質へと置き換わり、現在の生命になったと考えられています。また、生命の進化において、RNA合成-複製システムはタンパク質合成システムよりも先に出現したと考えられています。これらの仮説や考えは多くの研究により支持されています。今回の研究から明らかになった翻訳因子にRNA合成、伸長を促進する役割があるという事実は、RNAゲノムからなる太古生命体では、翻訳因子は元来、RNAゲノムの複製や転写を促進する補因子としての役割を担っており、その後出現した現在のタンパク質合成システムが、このRNA合成補因子を翻訳因子として取り込んだ可能性を示していると考えられます。