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ペプチド生成過程

2011年09月30日 | 科学
 国立大学法人東北大学大学院理学研究科の大竹 翼助教・掛川 武教授らは独立行政法人 物質・材料研究機構の谷口 尚グループリーダー・中沢 弘基名誉フェローらと共同で、高温高圧条件でのアミノ酸の重合実験をおこない、タンパク質の元となるペプチドが単純なアミノ酸(グリシン、アラニン)から作り出されることを明らかにしました。
 これまで、生命の起源を探る有機物合成実験によってアミノ酸など単純な有機物の生成機構は少しずつ解明されてきましたが、それらが原始地球の環境の中でさらに進化する過程はほとんど未解明でした。今回の実験では、より複雑な高分子の生成に成功し、より高圧で、より高濃度のアンモニアが存在することがアミノ酸やペプチドの安定性に重要であることを明らかにしました。
 これは、タンパク質の元となる物質の生成が原始地球の海底地下で起きていたことを示唆しています。つまり初期地球に海が出現した後、海底地下に単純な有機物が濃集し、海底堆積物が圧密・脱水される過程でより複雑な有機物へと“進化”したとする説を支持しています。
 本研究成果は、米国学術誌Astrobiologyのオンライン版で近日中に公開される予定です。~27日東北大学

 タンパク質の元と成る物質の精製が原始地球の海底地下で起きていたことを示唆する結果。生命の起源を探る有機合成実験では、アミノ酸の生成メカニズムは解明されつつあるが、アミノ酸からタンパク質になる過程は明らかになっていない。

 生命は複雑に高分子化された有機物で構成されており、その複雑な高分子は単純な有機物が重合することによってできあがってきたという、「化学進化」という概念が一般的となっている。ただし、これまでの初期地球環境や宇宙環境を模擬した有機物合成実験においては、今のところアミノ酸などの単純な有機物のみが生成されている状況だ。そのため、化学進化の場が初期地球のどこだったのかはまだ判明していない。また、生命活動には水が必要不可欠であることから、一般には、有機化合物は海水中で高分子に進化したと考えられている。アミノ酸の重合反応は吸熱反応であることから、高温条件下で反応が促進されるため、海底熱水系が化学進化および生命誕生の場として適当な環境であると、これまでのところ注目されてきた。しかし、高温の海水条件下ではアミノ酸の分解も速やかに起きてしまう。200℃以上だと数時間の内に分解してしまうため、海底熱水系で生命が誕生したとは考えにくいという見方もある。

 一方、NIMSの中沢弘基名誉フェローは、生命起源の地球史的考察から、海洋堆積物に吸着したアミノ酸などの有機化合物がその後の続成・変成環境の加圧・加熱によって脱水重合し、生命誕生に必要なより複雑な有機物へと進化したであろうとする「海底地下での分子進化説」を提案。
 今回の研究の成果は、単純な有機分子の安定性と重合反応において、圧力が重要な要因となることを示し、有機物の化学進化が海底地下で起こったことを示唆するという。また、高圧下におけるアミノ酸の安定背には周囲のアンモニア濃度が重要であることが示唆されたわけだが、初期地球においては、隕石衝突や海底熱水からの高いアンモニアのフラックスによって海水および海底堆積物中でも高濃度のアンモニアが期待される。高アンモニア濃度の海洋や海洋堆積物中にアミノ酸が安定に存在し、海洋堆積物が積層して圧密脱水する過程で、単純な有機分子が脱水重合して生命の誕生に必要な高分子さらには巨大分子になったと推定されているとした。

 今後は、こうした巨大分子が、どこでどのように遺伝や代謝機能を獲得したかといった、生命の発生の最終段階の謎に迫るとする。