とんねるず主義+

クラシック喜劇研究家/バディ映画愛好家/ライターの いいをじゅんこのブログ 

エノケンの法界坊

2006年03月27日 00時36分16秒 | 日本的笑世界
『エノケンの法界坊』(斎藤寅次郎監督 1938 日本)


エノケンって、「エノケン管弦楽団」を持ってたんですね。自分のオーケストラが持てるなんて、楽しいでしょうね~。

さて、『エノケンの法界坊』をビデオ鑑賞。現存するフィルムは、画質が悪く欠損部分も多い不完全版。ビデオで観ることのできる本編は、53分しかありません。なので、正当な評価がむずかしい作品です。

<あらすじ>
舞台は江戸時代。エノケンが演じる法界坊は、悪徳生臭坊主。永楽屋という古道具屋のお嬢様・お組に懸想するが、彼女は手代の要助と恋仲だった。要助はたぶんどこかの武家の跡継ぎで、お家再興のために家宝の掛軸をさがしている。大坂屋のスケベじじいが偶然その掛軸を持っていて、ひきかえにお組をよこせという。永楽屋の番頭の入れ知恵で、法界坊は祝言の席へ。まんまと掛軸を盗み出すが・・・


と、たぶんこういう話です(推定あり)。

歌舞伎の喜劇「法界坊」が下敷きになっていて、エノケン自身浅草時代に舞台で大当たりをとっていた演目だそうです。それをまったく知らずに観ると、途中から番頭が人をあやめたりし始めるのが「?」な展開ではあるのですが。

『日本の喜劇人』によると、エノケン自身はこの作品を失敗と言っていたらしい。その訳をかんがえるに、おそらく彼の体技の見せ場が少ないことが原因ではないかと。

エノケンがドタバタを演じる場面は、残っているフィルムの範囲ではあまりありません。唯一見せ場と思われる大坂屋主人との格闘シーンも、カメラが引き過ぎていて、ちょっと見づらい。全体的に画が狭く感じられて、奥行きがないんですね。だからエノケンの動きののびやかさとか、機敏な感じがいまいち生きない。その上長回しが多いので、躍動感に欠けるというか。

その点が『どんぐり頓兵衛』との違いでしょうか。観直してみたんですが、『頓兵衛』の方が、空間の使い方が断然うまいです。

御前試合の場面など、ロングショットを効果的に使って、広々とした画面構成をしています。旅館での追いかけっこの場面も、長回しながら俯瞰気味にカメラを据えているので、克明にエノケンの動きを追える(このシーン、音楽があればもっといいのに)。おそらくこれは山本嘉次郎監督の才能なんじゃないかな~と。あくまで予想ですが。

しかし『法界坊』の方が、よりナンセンス度は高いと思います。こまか~いギャグがすごくバカバカしいのですよ。だって、法界坊が住む長屋で、朝みんなでラジオ体操してるんですよ(笑)。なにげなーくやってるのが、またおかしい。こういうのは、一歩まちがうとイヤミになりますからねえ。斎藤寅次郎監督の演出力がなせるわざ、なのでしょう。

エノケンのモダンさは、やはり健在。ウエディングマーチの曲にのって高砂やを歌ったり(笑)。あと、浪花節。いきなり大声で「寝ては夢、起きてはうつつ、まぼろしの~♪」とやりだすのが、すごく笑える。これ、『どんぐり頓兵衛』でも歌っていました。

エノケンは、本当に声がいいですね。というか、声がおもしろい。「声」というのも、これまた天性のもので、トーキーの時代に入ってからは声もスターの条件になりましたが、その意味で、やはりエノケンは天性の喜劇スターだったのでしょう。チャップリンの声は、どうだったっけ?

『法界坊』は脚本が良いので、画質は悪くても、言葉のやりとりを聞くだけでも十分おもしろいと思います。脚本の小国英雄は、マキノ正博作品や、『生きる』以降の黒澤作品の脚本に参加している人だそうです。

黒澤と言えば、『虎の尾を踏む男達』(1945 エノケン出演)も続けて観たのですが、テンポは断然『法界坊』の方が良かったです。



*画像はCD『エノケンのキネマソング』ジャケット。





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1 コメント

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こんにちは (アイドルニュース)
2007-04-16 04:39:23
はじめまして^^

私のアイドルサイトで
こちらの記事を紹介させて頂きましたので
ご連絡させて頂きました。

紹介記事は
http://idleidle.blog97.fc2.com/blog-entry-168.html
です。

これからもよろしくお願いいたします^^
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