漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

熟字訓は遊び心で

2016-11-26 20:01:48 | 熟字訓・当て字
 熟字訓に悩む1級チャレンジャーは結構多いのではないでしょうか。「悩む」と言っても、難しいからというより、本試験対策としてどこまでやるかという、取り組み方針についてですけれど。

 熟字訓の特性として、ごくごく一部の例外の語を除いては推定、想像などでの正解は難しく、「知っていれば正解できるし知らなければ誤答」、ということがあります。ということはとにかく暗記ということなのですが、どんなに一所懸命覚えても本試験での出題は10題、満点を取っても10点にしか過ぎません。その上、これまでは過去問からの出題も多く、過去問さえやっておけば少なくとも5点、多い回では8点程度の得点が期待できますから、得点戦略という観点に限って言えば、熟字訓は過去問+α程度にとどめ、他の設問対策に時間を割いた方が明らかに得策でしょう。


 ・・・などと書いておきながら、きょうは「そんなことは分かっているけど、熟字訓が好きでつい深入りしてしまう」という私のような方々(笑)のために、本試験の得点アップにはほとんど役に立たなそうな演習問題30問です。どうぞ。


<問題>

1.  【石花】
2.  【海布】

3.  【戦慄く】
4.  【落籍す】
5.  【見蕩れる】
6.  【流離う】
7.  【敏捷い】

8.  【冷笑う】
9.  【若気る】
10.  【響動めく】
11.  【弥立つ】
12.  【私語く】

13.  【其方退け】
14.  【忌忌しい】
15.  【刀背打ち】
16.  【勾引かす】
17.  【老成る】

18.  【乙張り】
19.  【揺蕩う】
20.  【心悲しい】
21.  【微睡む】
22.  【焦臭い】

23.  【目紛しい】
24.  【周章てる】
25.  【理無い】
26.  【素見す】

27.  【偽瓢虫】
28.  【十大功労】
29.  【白英】
30.  【看麦娘】



<解答>

1.  せ    (「漢検 漢字辞典」初版 P.866/第二版 P.874)
2.  め    (174/177)
 読みが仮名一文字という、印象的この上ない熟字訓。「せ」はカメノテ(岩礁海岸の固着動物)、「め」はワカメやアラメなど、食用にする海藻の総称。「せ」の方は、【石】 との表記もあり、「辞典」にも載っていますが、 【】 は漢検配当外です。

 ここからは、ここ数日興味津々の「送り仮名のある熟字訓」。
3.  わなな    (897/905)
4.  ひか    (1531/1547)
 「ひかす」とは、「芸者や遊女などの前借金を払ってやり、身請けする」こと。青空文庫で検索すると、吉川英治、永井荷風、国枝史郎、坂口安吾など、たくさんの用例が出てきます。
5.  みと    (416/419)
6.  さすら    (1550/1566)
7.  はしこ    (1303/1316)

8.  せせらわら    (1577/1593)
9.  にやけ    (660/666)
 「笑う」族の2語。どちらもとても印象的。
10.  どよ    (342/344)
11.  よだ    (1277/1496)
 「身の毛も弥立つ・・・」  最近初めてこう書くのだと知りました。
12.  ささや    (602/607)

13.  そっちの    (261/264)
14.  ゆゆ    (261/264)
 これが「ゆゆしい」で「いまいましい」は 【忌ま忌ましい】 と表記するのが正しい(「辞典」もそうなっています)のですが、一般には 【忌々しい】 で「いまいましい」と使われてますね。 
15.  みねう    (1125/1135)
16.  かどわ    (469/473)
17.  ませ    (1597/1613)

18.  めりは    (124/126)
19.  たゆと    (1514/1530)
20.  うらがな    (781/788)
 これ、「辞典」の初版では熟字訓扱いですが、第二版では 【心】 に「うら」との表外読みが認識されていて、そのため通常の読みの扱いに修正されています。第二版での修正、なかなかに肌理が細かい?(笑)
21.  まどろ    (1280/1292)
22.  きなくさ    (748/755)

23.  めまぐる    (1469/1484)
24.  あわ    (680/686)
25.  わりな    (1542/1558)
 私の語彙にはありませんでしたが、「わりない」とは「分別がない。どうしようもない。深い関係である。ねんごろなさま。」とのこと。
26.  ひやか    (914/922)


27.  てんとうむしだまし    (285/288)
28.  ひいらぎなんてん    (694/700)
29.  ひよどりじょうご    (1221/1238)
30.  すずめのてっぽう    (227/230)
 最後の4つは、仮名で8文字以上の熟字訓。意外に少ないですね。ちなみに地名だと 【費府(フィラデルフィア)】 とか 【君府(コンスタンチノープル)】(10文字!) とか、他にもいくつかあります。人名(?)で 【素戔嗚尊(すさのうのみこと)】なんてのも。
 これが7文字になると途端に数が増えて、「辞典」巻末索引だけでも30個くらいはあります。


 いかがだったでしょうか。個人的にはこんなものを抽出して眺めているとなかなかに楽しい時間を過ごせますが、冒頭に書きました通り本試験の得点戦略的にはあまり役に立ちませんので、「とにかく点を取れる勉強を!」という方は深入りなさいませんよう・・・(苦笑)



 は、島根県立大学e漢字  の漢字フォントを使用しました。



【漢字三千年展】 に行ってきました

2016-11-26 15:30:47 | 雑記
  

 先般このブログでも紹介しました、東京富士美術館の 【漢字三千年展】 に行ってきました。今日は土曜日で小中学生は無料、そして午後からは阿辻哲次先生の講演もあるとあってか、開館間もない時間に到着したのですが、すでにかなりの人でした。

 時間の都合で残念ながら先生の講演は聞けませんでしたが、コンパクトな規模でありながらなかなかに充実した展示。兵馬俑に刻まれた作成者を表す一文字などは、本当に歴史の重みを感じさせるもので、ひと際多くの皆さんの関心を集めているようでした。

 東京での会期は 12/4(日)まで。その後来年の夏まで順次京都、新潟、宮城、群馬をめぐるようですから、東京はもちろん、今後の開催地にお近くの方は、足を運ばれてはいかがでしょうか。