わがせこが ころもはるさめ ふるごとに のべのみどりぞ いろまさりける
わがせこが 衣はるさめ 降るごとに 野辺の緑ぞ 色まさりける
紀貫之
夫の衣の洗い張りをする、そんな頃の春雨が降るごとに、野辺の緑が色濃くなっていくことだ。
「わがせこが 衣はる」までが、「春」を導く序詞になっていて、さらに「はる」が「張る」と「春」の掛詞になっています。序詞の部分は口語訳に際して意味を認識しない(と言うか、訳文には反映しない)方が普通かと思いますが、ここではあえて入れてみました。
作者の紀貫之はもちろん男性ですが、この歌は「私の夫の衣服の洗い張りをする」ということで、女性(妻)の立場から詠まれています。「土佐日記」を「をとこもすなる日記といふものを をむなもしてみんとてするなり」と、女性のふりをして書いたことも思い出されますね。