エコポイント&スマートグリッド

省エネ家電買い替え促進で有名となったエコポイントとスマートグリッドの動向を追跡し、低炭素社会の将来を展望します。

「スマートグリッド革命」(シリーズ;日本のスマートグリッド論の貧困)

2011-01-29 10:37:41 | Weblog
コロラド州ボールダーのスマートグリッドシティが暗礁に乗り上げているということを以前書きましたが、読売新聞の社説は、スマートグリッドの光と影について、論じています。ただ結論としては、光を強調しているだけで、影の克服については、何も触れていません。これは、現段階での日本のスマートグリッド論の貧困を表しています。
 読売新聞社説は、日本の実証事業4地域の総事業費が1266億円と見積もられていることを紹介していますが(これとて、コロラド州ボールダーのスマートグリッドシティと同様いずれ上昇する可能性もあります)、この事業費は「ユーザ」サイドからの見積もりではありません。しかも、この費用のねん出には、税金を起源とする国や自治体のお金、民間の投資資金が必要です。このお金は、「ユーザ」にとって負担ゼロのお金ではありません。むしろ、税金あるいは料金という形で「ユーザ」に跳ね返ってくるお金なのです。
 したがって、そこに必要となるのは、「ユーザ」の負担をできる限りなく少なくするため、「ムーアの法則」(半導体の性能対価格比が18カ月ごとに半減するという現象が長期にわたって継続するという経験則)と「メトカ―フの法則」(ネットワークの価値は参加するユーザの数の2乗に比例して相乗効果で高まっていくという経験則)が作用する環境を創造することによる「真の革命」の演出、その下での「ユーザ」の負担を上回る便益の提供であり、それを可能にするための事業者の「ビジネスモデル」なのです。今、日本のスマートグリッド論には、「ユーザ」の姿がまったく登場しません。また、アメリカのIT系企業、電気自動車系企業等とは異なり、残念ながら、本気で「ビジネスモデル」を構築しようとしている事業者も、ほとんどいない状況です。
もちろん、化石燃料依存からの脱出、再生可能エネルギーの導入、原子力とのベストミックス、地球温暖化防止などの、公益的な目的の達成は必要です。しかし、「ユーザ」や「ビジネスモデル」不在では、こうした公益目的の達成は不可能であり、ましてや日本で「スマートグリッド革命」を起こすことはできません。
「スマートグリッド革命」は、IT(情報通信技術)とET(エネルギー技術・環境技術)が融合したST(スマートテクノロジー)による「ST革命」です。では、「ST革命」を推進する上で最も必要なことは何でしょうか?私が代表を務める一般社団法人スマートプロジェクトは、ユーザ指向のボトムアップのイノベーションの創生、テクニカルエンジニアリングよりも重要なソーシャルエンジニアリングの実行等であると考えます。IT革命が「革命」と言える現象になったのは、この条件が初期段階で整備され、「ユーザ」と「サービスプロバイダー」との相互作用やそれに伴う「ビジネスモデル」が構築され、「ユーザ」と「サービスプロバイダー」のウィン・ウィンの状況、各種の「サービスプロバイダー」間の競争と協調のダイナミズムが生まれたからです。そして、膨大な数のユーザがネットワークに容易に参加できる状況が生まれたことにより、「ムーアの法則」と「ムーアの法則」と「メトカ―フの法則」が作用する環境が産み出されたのがIT革命の実相です。
IT革命勃興時においては、シリコンバレーにおいて誕生した「スマートバレー公社」(ジョン・ヤング会長(元ヒューレット・パッカードCEO)、ビル・ミラー副会長(スタンフォード大学教授)、ハリー・サール社長(起業家))がインターネットの民生利用のパイロット&ファシリテーターとして機能し、条件を整えました。「スマートバレー公社」は非営利の民間会社として認められた簡素で柔軟な組織体であり、数名の事務局で構成されていました。実際の活動は、「コマースネット」(インターネットを活用した商取引)、「スマートスクール」(インターネットを活用した教育)、「テレコミューティング」(インターネットによるテレコミューティングの促進)などのプロジェクトをコンソーシアム方式で推進することで遂行されました。
いま時代は、IT革命からそれを包摂する「ST革命」への移行という大変革期にあります。一般社団法人スマートプロジェクトは、「ST革命」のパイロット&ファシリテーターとして、IT革命時の「スマートバレー公社」に相当する機能を果たすことを使命としています。