エコポイント&スマートグリッド

省エネ家電買い替え促進で有名となったエコポイントとスマートグリッドの動向を追跡し、低炭素社会の将来を展望します。

原子力発電は新増設よりも設備利用率の向上と出力増強を!

2010-08-08 00:00:27 | Weblog
原子力発電に関しては、1986年チェルノブイリ原子力発電所の炉心溶融事故以降世界的に建設が下火になっていましたが、近年、原子力発電は発電段階でCO2を排出せず、ライフサイクル全体で見てもCO2排出レベルが相当低いことから、「原子力ルネッサンス」と呼ばれる原子力回帰の動きが世界的に高まっています。
しかし、原子力発電に関してもそれがウラン235の核分裂を利用するものであれば、ウランの資源は化石燃料と同様有限であり、可採年数は85年程度です(資源エネルギー庁「原子力2005」)。核燃料サイクルの確立に向けての技術、コスト等の問題も解決されていません。また、原子力には安全面での対応とともに、核不拡散や高レベル放射性廃棄物などの点でいまだ未解決の大きな問題があります。発電を終了した廃炉の処理をどうするかという問題もあります。
原子力発電所に対するテロリストの攻撃は現実の世界で起こりうるシナリオですし、IAEA(国際原子力機関)による核不拡散に関する国際的レジームの構築も道半ばです。また、原子力発電に伴って排出される高レベル放射性廃棄物の処分に関しては、世界的に見て技術的な実証・検証はまだ時間がかかるのが実情ですし、パブリックアクセプタンスの点で大きな問題を抱える日本では処理場すら見つかっていません。さらに、核燃料サイクル実現に当たって最大のボトルネックとなっている再処理の見通しがなかなかつかず、再処理のコストいかんにより原子力発電のメリットされている発電コストが上昇する可能性もあります。
現在「原子力ルネッサンス」と言われ、アメリカ、欧州などの先進国のみならず途上国で原子力発電所を建設しようという動きが高まっています。ただ、ここに大きな陥穽が待ち受けています。原子力の安全確保のためには、ハード、ソフト、インフラ、人材などすべての面で相当の期間をかけて準備することが必要ですが、途上国でそのような準備が十分にできているところは少ないのが実情です。過去、先進国ですら1979年のスリーマイルアイランド事故、1986年のチェルノブイリ事故などが起こっており、日本でも1999年にJCO臨界事故等が起こっています。原子力の世界でひとたび世界のどこかで事故やそれに準ずる事象が起これば、世界中の原子力発電所の運行に影響が生じます。
石油、石炭などの化石燃料から太陽光、風力などの再生可能エネルギー主体の経済へ切り替えれば、多くの国が輸入石油に依存しなければならない状態に終止符を打ち、中東やその他の地域でイスラム武装勢力と西側諸国との間で繰り拡げられている危険な地政学上の駆け引きを収束させることにもつながるでしょう。
原子力発電に関しては、推進すべきかどうかについて喧々諤々(けんけんがくがく)の議論があるところですが、2009年8月総合資源エネルギー調査会需給部会の試算によると、55基ある既存の原子力発電所の設備利用率を現行の60%から80%に向上させるだけで60百万トンのCO2を削減することができます。これは、計画されている原子力発電所9基を新増設することによるCO2削減分50百万トンを2割も上回ります。さらに、欧米並みの出力増強(パワーアップレート)について、日本も早急に取り組むべきです。
私は、原子力発電の新増設に関してはスタンドスティル(現状維持)として、むしろそれを“ばね”として早急に再生可能エネルギーの大幅拡大を目指すことが賢明な方策であると考えています。