ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

極道めし

2024年05月13日 | 映画みたで

監督 前田哲
出演 永岡佑、勝村政信、落合モトキ、ぎたろー、麿赤兒、木村文乃

 小生は若いころコピーライターの経験がある。広告を制作する時、特に食品の広告を創る時によくいわれる言葉が「シズル感」を出す。ということ。ステーキを売ろうとする。ジュージューと音を立てて鉄皿にステーキが乗っている。ソースをかける。ぼわっと湯気が立ちえもいわれぬ香りが立つ。肉にナイフを入れると肉汁がしみ出る。どうです。おいしそうだろう。小生はもうコピーライターではない。もっと練達のコピーライターが書くと、ゴクリと思わずつばを飲むだろう。
 この映画は、その「シズル感」の映画である。それも2重構造のシズル感となっている。
 舞台は刑務所。とある雑居房。5人の囚人がいる。主人公は新入りの元ヤクザ。正月が近い。ことしもアレをやるかという話になった。アレ=おせち争奪戦のこと。
 いままで食べて来た中でいちばんおいしいモノの話をする。聞いてた者にごくりとさせたら1点。勝ったら、正月に出されるおせち料理の好きなのをもらえる。囚人たちがうまいもんの話をするわけ。ただたんにうまい食べ物だけではなく、その時のそれぞれの人生が語られる。このあたりの脚本の処理はうまい。食べ物でどう人生を表現するかだ。
 囚人がシズル感たっぷりに話す。それを審査役の囚人が、そのシズル感をどう審査するか。そして、それを観ているこの映画の観客がいかにシズル感を感じるかだ。シズル感の2重構造になっているのだ。
 しかし囚人たちが食べてる食事。刑務所の食事だから、いわゆる「クサイめし」なんだろうがけっこうおいしそう。病院の食事よりよっぽどおいしそうである。