ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

負けくらべ

2024年05月14日 | 本を読んだで
 
志水辰夫           小学館

志水辰夫は冒険小説ファンの小生が、そのうち読みたいと思っていた作家だった。で、初めて志水の作品を読んだわけ。ハードボイルド作家だとは聞いていたが、一読後の印象は小生の欲するハードボイルドとは少し違和感を感じたしだい。
 主人公は初老(60は超えているだろう)の男性介護士三谷。介護施設に属しているのではなくフリーの介護士だ。三谷は特殊な能力を持っている。対人関係能力、調整力、それに記憶力。舞台のそでからホールの客席を見る。それだけで客の顔をすべて覚える。
 三谷の知人に元内閣情報調査室の男がいる。その男に2枚の写真を見せられ、ホールの講演会にいって、2枚の写真に写る同一人物がホールにいるか判別する仕事を依頼される。
 ハーバード卒のIT企業家大河内牟禮。三谷は大河内に見込まれ仕事のパートナーとして大河内の会社に呼ばれる。この大河内の会社は東輝グループの傘下。巨大企業グループのオーナーは大河内の母の尾上鈴子。90才にして経営に辣腕をふるう化け物ばあさんである。
 この東輝グループ。尾上家、大河内家の骨肉の内紛に三谷は巻き込まれる。と、これをこってりと寿行的熱さで描いてくれたら、面白いと思うのだが、わりとサラサラと書いていた。これでいいのである。著者の志水氏は86才。ワシもこのトシである。若いころはこってり濃厚とんこつラーメンが良かったが、トシ取るとあっさりさっぱり盛りそばの方が口にあう時もある。とは、いいつつも、もちろんワシ=雫石はまだまだじいさんじゃない。こってい油ギトギトの揚げもんも大好きである。