ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

鬼の詩

2021年02月08日 | 映画みたで

監督 村野鐵太郎
出演 桂福團治、片桐夕子、露乃五郎、藤本義一、笑福亭松鶴

 冒頭、藤本義一氏と笑福亭松鶴師匠の対談。松鶴師匠のお話が興味深い。昔はなかなかけったいな落語家がいた。「有馬小便」だけを演るだけで何十年も落語家をやっていた人がいたそうな。
 この映画の主人公桂馬喬も、極め付きのけったいな落語家。この桂馬喬、原作者藤本義一が創作した人物であるがモデルがいる。明治の落語家桂米喬。この桂米喬、あの有名な初代桂春団治が目標とした落語家。いわば初代浪速の爆笑王。2代目が初代春団治、3代目は桂枝雀ということになるかな。4代目浪速の爆笑王にはだれがなるか。
 桂馬喬。最初はどうということもない落語家だった。映画の初めで「天王寺詣り」を演っていたが一本調子の噺であった。先輩落語家桂露久のことを手踊りと芝居噺だけの落語家とバカにして楽屋でもあいさつもしない。それで、ある時、客にうける落語とはと自問自答。露久の芸を盗もうと露久にぴったりはりつく。
 馬喬、生涯で2度大きな芸の転機を迎える。愛妻の死。そして天然痘に罹患して容貌が大きく変わる。最後に、天然痘でできた顔のあばたにキセルをくっつけるという芸をはじめる。これが客にうける。
 上方落語最長老で人情噺の名人桂福團治師匠、30代のころの映画である。桂馬喬の狂気が若いころの福團治師匠の熱演によってよく表現されていた。愛妻露役の片桐夕子、日活ロマンポルノ出身の女優さんだが、しっとりとした良い女優さんで福團治さんとの相性も良かった。それになんといっても露乃五郎師匠がうまい。
 明治時代の寄席の雰囲気が判って上方落語ファンとして大変に興味深かった。