ある記憶

遥か遠くにいってしまった記憶たち

「千恵子抄」高村光太郎

2009-05-20 22:53:12 | 

あの頃

人を信ずることは人を救ふ。
かなり不良性のあつたわたくしを
智恵子は頭から信じてかかつた。
いきなり内懐(うちふところ)に飛びこまれて
わたくしは自分の不良性を失つた。
わたくし自身も知らない何ものかが
こんな自分の中にあることを知らされて
わたくしはたじろいだ。
少しめんくらつて立ちなほり、
智恵子のまじめな純粋な
息をもつかない肉薄に
或日はつと気がついた。
わたくしの眼から珍しい涙がながれ、
わたくしはあらためて智恵子に向つた。
智恵子はにこやかにわたくしを迎へ、
その清浄な甘い香りでわたくしを包んだ。
わたくしはその甘美に酔つて一切を忘れた。
わたくしの猛獣性をさへ物ともしない
この天の族なる一女性の不可思議力に
無頼のわたくしは初めて自己の位置を知つた。




ちえこ、ちえこ、…   ち○こ  … 昔の女の名前にも似て
「レモン哀歌」 は、光太郎との出会い。美しい詩。
「道程」もそう。励まされる詩。

「あの頃」。そう、あの頃。


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2 コメント

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Unknown (*CottonRose*)
2009-05-21 21:39:01
「千恵子抄」高村光太郎
とても好きな詩です。

だけど
とても哀しい
物語。
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千恵子は… (dragon21)
2009-05-21 22:05:14
こんばんは、Cotton Roseさん。

千恵子は東京に空がないという。
本当の空をみたいという…

千恵子と光太郎のストーリーはたまらない。

思うたびに泣けてきます。

また、千恵子亡き後の、
光太郎の孤高な生き方にあこがれもします。
返信する