ドンドンこにしの備忘録

個人的な備忘録です。他意はありません。

「猿の見る夢」 桐野夏生

2022年08月30日 15時43分35秒 | 作家 か行
猿の見る夢 (講談社文庫) 2022.8.28読了。
桐野 夏生 (著)

現在の薄井の楽しみは、十年来の愛人しかなかった。それなのに逢い引きに急ぐところを会長に呼び止められ、社長のきなくさいセクハラ問題を耳打ちされる。家に帰れば、妻が占い師を知らぬ間に連れ込んでいる。女のマンションで機嫌をとって朝帰りすれば、妹から電話で母が亡くなったと知らされた。「なぜみんな俺を辛い立場に立たせる?」欲深い59歳の男はついにある一線を越えてしまう。もっとも過激な「定年小説」!



定年小説だそうですが、この主人公と年齢の近い男が読めば、これは立派なホラー小説です。ほんと怖かった、そして大変おもしろく読ませていただきました。「猿の見る夢」という題名も秀逸です。8点

「夜また夜の深い夜」 桐野夏生

2022年08月24日 01時12分30秒 | 作家 か行
夜また夜の深い夜 (幻冬舎文庫) 2022.8.23読了。
桐野夏生 (著)

友達に本当の名前を言っちゃだめ。マイコにそう厳命する母は整形を繰り返す秘密主義者。母娘はアジアやヨーロッパの都市を転々とし、四年前からナポリのスラムに住む。国籍もIDもなく、父の名前も自分のルーツもわからないマイコは、難民キャンプ育ちの七海さん宛に、初めて本名を明かして手紙を書き始めた。疾走感溢れる現代サバイバル小説。



ラストはどうなるんだろ?と思って読んできたが、小さなどんでん返しとふわっとした終わり方。なんかもっとハードな着地になるのかと思っていたからちょっと気が抜けた。しかし、主人公たち3人の生命力をはらんだ疾走的サバイバルは面白く読めた。舞台がナポリっていうのもまたダークでいい。7点。

「奴隷小説」 桐野夏生

2022年08月18日 23時49分55秒 | 作家 か行
奴隷小説 (文春文庫) 2022.8.18読了。
桐野 夏生 (著)

長老との結婚を拒絶する女は舌を抜かれてしまう、という掟のある村で、ある少女が結婚相手として選ばれる「雀」。
ある日突然、武装集団によって、泥に囲まれた島に拉致された女子高生たちを描いた「泥」。
アイドルを目指す「夢の奴隷」である少女。彼女の「神様」の意外な姿とは?(「神様男」)。
管理所に収容された人々は「山羊の群れ」と呼ばれ、理不尽で過酷な労働に従事し、時に動物より躊躇なく殺される。死と紙一重の鐘突き番にさせられた少年の運命は?(「山羊の目は空を青く映すか」)……など。
時代や場所にかかわらず、人間社会に現れる、さまざまな抑圧と奴隷状態。
それは「かつて」の「遠い場所」ではなく、「いま」「ここ」で起きている。
あなたもすでに、現代というディストピアの奴隷なのかもしれない――。
様々な囚われの姿を容赦なく描いた七つの物語。
桐野夏生の想像力と感応力が炸裂した異色短編集。



現代というディストピアの奴隷とはどういうことなのか?とらわれているのは自分自身に責任があるのか?仕組みなのか?自己責任なのか?なぜかこんなことを考えさせられる小説。現代のプロレタリア文学なのか?本筋とは全然違うことを考えてしまうある意味すごい小説なのかもしれない。7点。

「夜の谷を行く」 桐野夏生

2022年08月18日 23時41分13秒 | 作家 か行
夜の谷を行く (文春文庫) 2022.8.15読了。
桐野 夏生 (著)

女たちが夢見た「革命」とは?
連合赤軍事件をめぐるもう一つの真実に光をあてた傑作長篇。
山岳ベースで行われた連合赤軍の「総括」と称する凄惨なリンチにより、十二人の仲間が次々に死んだ。
アジトから逃げ出し、警察に逮捕されたメンバーの西田啓子は五年間の服役を終え、人目を忍んで慎ましく暮らしていた。
しかし、ある日突然、元同志の熊谷から連絡が入り、決別したはずの過去に直面させられる。



独り暮らし、63歳女性の実は壮絶な過去。それを日常のなかに必死に埋め込んでなかったことにしようと生活してくが、あるきっかけであの当時の自分と対峙していく。引きずり込まれます。7点。

「バラカ」(上・下) 桐野夏生

2022年08月10日 15時59分51秒 | 作家 か行
バラカ 上・下 (集英社文庫)2022.8.10読了。
桐野夏生 (著)

出版社勤務の沙羅は40歳を過ぎ、かつて妊娠中絶した相手の川島と再会。それ以来、子供が欲しくてたまらなくなってしまった。非合法のベビー・スークの存在を聞きつけ、友人・優子とドバイを訪ねた。そこで、少女「バラカ」を養女にしたが、全く懐いてくれない。さらに川島と出来婚をしていたが、夫との関係にも悩んでいた。そんな折、マグニチュード9の大地震が発生。各々の運命は大きく動き出す。
東日本大震災によって、福島原発4基すべてが爆発し、日本は混沌としていた。たった一人で放射能被害の警戒区域で発見された少女バラカは、豊田老人に保護された。幼くして被曝した彼女は、反原発・推進両派の異常な熱を帯びた争いに巻き込まれ―。全ての災厄を招くような川島に追われながらも、震災後の日本を生き抜いてゆく。狂気が狂気を呼ぶ究極のディストピア小説、ついに文庫化!



この小説の中の日本は東日本大震災後の被害が現実の日本よりひどいことになっているんだが、実際の日本と見えない部分では相違ないように思えてくる怖さ。悪の組織がなんなんだか実態がつかめないのもうさん臭くてほんといいんだよな。あと、川島っていうくそったれが非常にうまく描かれていていい。エンターテイメントな疾走感もいい。7点。

「東京棄民」 赤松利市

2022年08月02日 20時54分05秒 | 作家 あ行
東京棄民 (講談社文庫) 2022.8.2読了。
赤松利市 (著)

これは、日本の未来に対する警告である。
感染者、重症者、死者、最多更新。最凶の新型コロナウイルス・東京株が蔓延した未来。政府は東京を見捨てる決意をした!
令和4年。新型コロナは再び変異を起こし、東京固有の株が猛威を振るっていた。大量の感染者。死者。なすすべがなくなった政府はいよいよ、「東京逆ロックダウン」、すなわち感染者を残し、東京都民を全国に分配し、東京をロックダウンすることを決意する。しかしろくな学歴もなく、正社員の立場も失い、漫画喫茶に寝泊まりしている主人公のイサムは政府の避難指示を受け取ることができず、東京に取り残されることになってしまった。
山本周五郎賞候補、大藪春彦賞受賞、業界最注目作家、初の文庫書下ろし。



発想は素晴らしい。けど、小説としては素晴らしくなかった。この設定でもう少し面白いことが書けないものか。4点。

「ロスト・ケア」 葉真中顕

2022年08月02日 20時50分51秒 | 作家 は行
ロスト・ケア (光文社文庫) 2022.7.27読了。
葉真中 顕 (著)

戦後犯罪史に残る凶悪犯に降された死刑判決。その報を知ったとき、正義を信じる検察官・大友の耳の奧に響く痛ましい叫び――悔い改めろ! 介護現場に溢れる悲鳴、社会システムがもたらす歪み、善悪の意味……。現代を生きる誰しもが逃れられないテーマに、圧倒的リアリティと緻密な構成力で迫る! 全選考委員絶賛のもと放たれた、日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。



葉真中作品ははずれがない。6点