明日できること今日はせず
人形作家・写真家 石塚公昭の身辺雑記
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湯ノ山慕情
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2010-05-30
早朝五時半に旅館を出る。長谷寺の石段は数は多いが段差は低い。せっかく来たのだから、と膝が悪い母は数えながら上がっていく。昨年は私が「今なん時だ」などといって邪魔をした。宗旨替えした父の永代供養は済ませているが、今回は母と私の諸々の祈願ということであったが、法要の際、読み上げられた私の名前が違っていた。ご利益も半減の気分である。今回も大観音の足を触る。 丁度牡丹と紫陽花の間の季節で緑一色であったが、この日の東京と違い、爽やかな五月晴れで気持ちが良い。朝食が遅くなってしまったので、一度旅館に戻り、再び出かけ、公開していた16メ-トル46センチの御影大画軸や寺宝の数々を見学する。ここには松尾芭蕉も訪れており、十日あまり前に記念の碑ができたばかりだという。2往復は母にはきつい筈だが、せっかくだから観て行こう、というので、もう一度本堂近くまで上がる。予定より遅くなったので四日市で母と別れ、湯ノ山温泉へ向かう。菰野の陶芸村で陶芸工房をかまえる友人Iに迎えに来てもらう。N君も合流し、温泉に入った後、施設内の酒場で再会を祝し乾杯。案の定、この齢になると数年会わないくらいでは懐しいという気分は薄いが、十代で知り合った連中との想い出は、恥ずかしいことほど楽しい。青春の迷場面の数々が想い出される。 東京では考えられない早い時間でラストオ-ダ-となり、降り出した雨の中、カラオケスナックへ。私は大のカラオケ嫌いだが、選択の余地がないのでしょうがない。友人とはすでに顔馴染みの女性客が何人か歌っていたが、妙に上手である。昔どこかでクラブを経営していたらしいマスタ-を含め、女性客全員が訳ありで、それぞれの事情を抱えこの土地へ流れてきた人ばかりだそうである。迫真の歌唱も、その辺りが反映されているようである。子犬を連れた髪の長いスレンダ-な女性は、なにやら重い病気を抱えているらしい、とN君に耳打ちされた直後、その良い香りを漂わせた女性が突然私の膝の上へ。岩崎宏美さんのヒットメドレ-を熱唱されてしまう。病気を抱えた女性は当然いたわらなければならない。“人間椅子”と化した私は、K本でしばしばご一緒する宏美さんのご主人、今 拓哉さんの顔を想い浮かべていたのであった。私はカラオケは数回しか歌ったことがなく、『サムライ日本』『愛しのマックス』しか歌ったことがない。本日は『愛しのマックス』の方を。 雨のそぼ降る山の中の場末のスナックで、事情を抱えた女達の熱唱が深夜まで続いた。
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