弁護士NOBIのぶろぐ

マチ弁が暇なときに,情報提供等行います。(兵庫県川西市の弁護士井上伸のブログです。)

過払金と弁護士と司法書士

2009年11月02日 | ⑤法律問題について
あらかじめ述べておきますが,
以下に述べることは,現時点では一弁護士である私の見解でしかありません。
もし反論がある方は,正々堂々,感情論ではない,正当な反論をしてください。
もし私が間違っていたと思えば,謝罪ないし撤回します。



サラ金に対する過払金に対する訴訟は,弁護士と司法書士がやっています。

数年来,弁護士・司法書士の間であった過払バブルも終わりを告げ,現在,サラ金の過払事件で,弁護士・司法書士による過当競争が行われている感じがします。

関西,特に大阪では,電車の広告やTVCMなど司法書士の過払金返還の宣伝をよく見ます。

弁護士の過払事件にも色々問題があるようですが,今回は特に司法書士の過払事件についての問題点について言及したいと思います。


現在,司法書士は簡裁の過払金訴訟(過払金が140万円以下のもの)は代理人として法廷に立っています。
司法書士は,代理権のある簡裁の事件だけではなく,地裁の訴訟(過払金が140万円を超えるもの)は依頼者本人を法廷に立たせ,自らは傍聴席で依頼者に指示を送っているのをよく見ます。

某裁判所では,過払訴訟をやっているのは,弁護士より司法書士の方が多いのじゃないかと思われる状況です。

私は,司法書士が簡裁事件で法廷に立つのは,司法書士法3条6項が認めているので問題はないと思いますが,地裁事件,つまり140万円を超える過払金事件をやるのは問題があると思っています。

司法書士は,司法書士法3条4項で,裁判所に提出する書類を認められており,形式的には,これに基づき,140万円超の過払訴訟をやっているのだと思います。

私は,もし司法書士が形式どおり,本当に書面作成の報酬だけをもらっているだけなら問題がないと思います。
しかし,実際に,訴訟や示談交渉の結果,獲得した140万円超の過払金から弁護士と同じように一定割合の報酬を取っていたら,大問題だと思います。

なぜなら,形式上,書面作成しただけなのに,訴訟や司法書士の示談・和解交渉の結果について,140万円超の過払金についての報酬を取っているということは,実質的には,司法書士法が認めている以上の業務についての報酬を取っていることになるからです。

要するに,140万円超の過払金に対する報酬を取った時点で,法律上許されない弁護士しかできない業務をやっていることにほかならないことにからです。
弁護士法72条は,法律が認める例外以外,弁護士でない者が弁護士の業務を行うことを禁じ,同法77条は刑事罰さえかけています。

私は,百歩譲っても,1件あたりの書面作成料(任意整理の着手金に比べてそんなに高くならないはず)と140万円までの報酬(だいたい2割程度か)は取るのは仕方ないとしても,それ以上を取るのは,大問題だと思います。


この件に関連して(この論点ずばりではないですが),最近,司法書士の債務整理についての140万円の上限の解釈について争っている裁判がありました。

その事件は,司法書士が弁護士と同様の債務整理などの裁判外代理権を認められた「訴額140万円以内」の解釈をめぐり争っている事件で,弁護士側は「整理の対象になる全債務額」と主張し,これに対し,司法書士会は「整理によって圧縮される債権額」としていたそうです。

平成20年11月の1審神戸地裁判決は,司法書士がわざと圧縮額を140万円以内に収める危険性があると指摘して,弁護士会の解釈が妥当としたようです。

これに対し,本年10月16日の控訴審大阪高裁判決は,「公権的解釈も確立していない状況では、いずれかの見解に立つことはできない」として判断を回避したようです。


以上は,参考として紹介しましたが,

いずれにせよ,140万円超の過払金の請求について,司法書士が報酬をもらってやるのは,違法だと思います。
この点について,私が見たかなり限りある広告,HPなどでは,そのような140万円で報酬基準を分けて書いてあったり,その点の説明を十分やっている事務所はありませんでした(どこかにはあるかもしれません。その人はすみません。)。

そもそも,過払訴訟で,本人を法廷にいつも出頭させておいて,本人を出頭させる必要なく全部自分でやる弁護士と同様の報酬を取るのは,違法かどうかを置いておいても,常識的におかしいです。
そもそもサラ金の被害者の依頼者を毎回公開法廷に立たせるのもかわいそうです。

あと,過払金訴訟は,今は法的な争点が増えたり,サラ金業者の経営悪化から回収可能性が悪くなったりして,いろいろ難しくなっていますが,基本的には,成り立ての弁護士でもできる簡単な訴訟です。
また,依頼者が,債務さえなくなれば満足だという人がいまだに多く,そんなにたくさんとらなくてもすぐ満足してしまい,手を抜こうと思えばいくらでも抜ける事件なのです(ちなみに,私は,ガンガンに攻めたいのですが,いろいろなリスクをきちんと説明してしまうと,依頼者はすぐに和解を希望することが多いです。なので,私の希望とは異なり,なかなかガンガンやらせてもらえません。)。

もちろん,田舎で,弁護士が少ないところなら,司法書士がやる需要があります。この場合,ある程度は仕方がないと思いますが,やはり弁護士法・司法書士法は守るべきだと思います。
法律を違反してまで,人助けというのは,公的な資格を持ったプロがやることではないと思います。

上述の私の百歩譲った報酬でやらないのなら,司法書士は140万円超の過払金訴訟から直ちに撤退すべきだと私は思っています。

そして,そのようにやるなら,きちんと広告やHPや契約の際など,事前に依頼者きちんとその点を説明すべきです。
また,140万円を超える訴訟になると依頼者本人が裁判所に出頭しなければならないこと,弁護士に頼んだ場合には本人が出頭する必要がなくなることについても,事前にきちんと説明するべきです。


今後,もしからすると,取りすぎた報酬を返せという訴訟が起きて来るかもしれませんね。(取りすぎた報酬とは,140万円超の報酬。たとえば,報酬が20%として,取った過払金が300万円の場合,司法書士が,300万円×20%=60万円の報酬を取っていたら,300万円-140万円=160万円の20%,つまり,32万円については報酬契約が弁護士法72条違反で無効であり,司法書士に対する過払いとして返せということ。)

過払司法書士に対する過払訴訟・・・なんか皮肉な感じですね。

こういう訴訟が実際に起きるかどうもわからないし,結果も実際やってみないとわからない部分は当然あります。

このような訴訟は実際にはやるのは正直勇気いります。上述の裁判みたいに,弁護士vs司法書士の大きな戦争になるかもしれませんし。


久々に過激なことを書きていまいました。

このブログが炎上しないことだけを祈るだけです。

(興味のある方はコメント欄も見て下さい。補足的なことがかいてあります。)
(当初投稿したものから,若干文章を直したり,加筆しています。)