あなたの平和と幸福(PART 1)

二度と負け戦はしない

憲法では戦争をしないと宣言しています、なんてことも言って欲しくない。
一方的に宣言したくらいで実現するほど、世界は甘くないのである。
多くの国が集まって宣言しても実現にほど遠いのは、国連の実態を見ればわかる。 ここはもう、自国のことは自国で解決する、で行くしかない。
また、多くの国が自国のことは自国で解決する気になれば、かえって国連の調整力もより良く発揮されるようになるだろう。
二度と負け戦はしない、という考えを実現に向かって進めるのは、思うほどは容易ではない。
もっとも容易なのは、戦争すると負けるかもしれないから初めからしない、という考え方だが、これもこちらがそう思っているだけで相手も同意してくれるとはかぎらないから有効度も低い。
また、自分で自分を守ろうとしないものを誰が助ける気になるか、という五百年昔のマキアヴェッリの言葉を思い出すまでもなく、日米安保条約に頼りきるのも不安である。
(注: 赤字はデンマンが強調。
写真はデンマン・ライブラリーより)
221 - 222ページ
『日本人へ (国家と歴史篇)』
著者: 塩野七生
2010年6月20日 第1刷発行
発行所: 株式会社 文藝春秋
『女に冷たい女』に掲載
(2011年8月20日)
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塩野七生が文学の方面からも歴史学の方面からも叩かれる存在らしい、ということは薄々知らなくはなかったが、実態はかなり酷かったのだなと思う。
塩野自身はずっとイタリアにいたからわれ関せず、という風情だったようだが、日本にいたら相当きつかっただろうと思う。

ケイトー。。。また塩野七生さんのことを取り上げるの?

いけませんか?
だってぇ、『女に冷たい女』ですでに取り上げたでしょう?
うん、うん、うん。。。でもねぇ、今日は違う角度から批判したいのですよ。
どうして塩野七生さんにこだわるの?
あのねぇ~、二度と負け戦はしない、という考え方が僕にはどうしても気になるのですよ。
なぜ。。。?
たとえば、もう亡くなってしまった作家の野上弥生子(1885-1985)さんは1937(昭和12)年の年頭の新聞に次のように書いていた。

たったひとつお願いごとをしたい。 今年は豊年でございましょうか、凶作でございましょうか。 いいえ、どちらでもよろしゅうございます。 洪水があっても、大地震があっても、暴風雨があっても、……コレラとペストがいっしょにはやっても、よろしゅうございます。 どうか戦争だけはございませんように……
(注: 赤字はデンマンが強調。
写真はデンマン・ライブラリーより)

戦争はもう懲り懲りだから、戦争だけはありませんようにと、お願いしているのですよ。

誰だって戦争は嫌ですから当然でしょう!?
また前年の1936(昭和11)年2月14日、永井荷風さんの日記には次のように書かれていた。

日本現代の禍根は政党の腐敗と軍人の過激思想と国民の自覚なき事の三事なり。
政党の腐敗も軍人の暴行も、これを要するに一般国民の自覚に乏(とぼ)しきに起因するなり。
個人の覚醒せざるがために起こることなり。 然(しか)り而(しこう)して個人の覚醒は将来に於(おい)てもこれは到底望むべからざる事なるべし。
(注: 赤字はデンマンが強調。
写真はデンマン・ライブラリーより)

これを読むと現在の日本の事を言っているような気がするのですよ。

でも、日本には軍隊はないでしょう!?
ありますよ。 「軍隊」と言う人はめったに居ないけれど、日本には「自衛隊」という立派な軍隊がありますよ。 国防予算では世界で第4位ですよ。


でも、過激な軍人さんは現在の日本には居ないでしょう?

いや。。。いますよ。 たくさんの自衛隊員が。。。それに過激な軍人も居ましたよ。
誰ですか?
割腹自殺を遂げた三島由紀夫さんですよ。 「楯の会」と言う“私兵”を創設して市谷の自衛隊の総監を人質にして自衛隊員を本部の前に集めさせ、演説を行い、扇動してクーデターを起こそうとした。 もう、こうなったら過激で立派な“軍人”ですよ。


でも、失敗に終わったのでしょう?

もちろんですよ。 成功していたら日本は世界の国から“日本の自衛隊員は三島由紀夫と一緒に気が違ってしまったのか!”と呆れられてしまうところでしたよ!
。。。で、その三島さんと塩野七生さんが似ていると、ケイトーは言うの?
そうですよ。。。塩野七生さんは三島さんほど過激ではないにしても、二度と負け戦はしない、という考え方には、「どこの国と戦っても勝てるような強い軍隊を創設しましょう!」という三島さんが生きていれば喜びそうなことを言おうとしているのが見て取れますよ。
そのような考え方がケイトーには気に喰わないのォ~?
いや、僕だけではありませんよ! 野上弥生子さんが生きていたら塩野七生さんの上の文章を読んで「あなた、何を言ってんのよ!あなたは戦争の悲惨さを経験したことがないの?」と喧嘩を吹っかけると思うのですよ。
そうかしら?
やだなあああァ~。。。シルヴィーだって戦争は絶対に反対でしょう!?
もちろんよ! 私と家族はインドネシアの動乱をさけてオランダに移住したほどですからね。 動乱だとか、内乱だとか、戦争だとか。。。そういう血なまぐさい事は大嫌いなのよ。
だったら、僕の言おうとしていることが分かるでしょう?
でも、言論の自由、表現の自由があるのだから塩野七生さんの考えを公表することは許されることでしょう!?
もちろんですよ。 僕は黙っていろ! そのような馬鹿げた事を書くな!と言おうとしている訳ではない。
じゃあ、ケイトーはいったい何を言おうとしているのよ?
あのねぇ~、半藤一利さんが『昭和史』の中で次のように書いていた。
歴史に学べ

よく「歴史に学べ」といわれます。 たしかに、きちんと読めば、歴史は将来にたいへん大きな教訓を投げかけてくれます。 反省の材料を提供してくれるし、あるいは日本人の精神構造の欠点もまたしっかりと示してくれます。 同じように過(あやま)ちを繰り返させまいということが学べるわけです。 ただしそれは、私たちが「それを正しく、きちんと学べば」、という条件のもとです。 その意思がなければ、歴史はほとんど何も語ってくれません。
(注: 赤字はデンマンが強調。
写真はデンマン・ライブラリーより)
503ページ 『昭和史(1926-1945)』
著者: 半藤一利
2009年6月11日 初版第1刷発行
発行所:株式会社 平凡社

つまり、塩野七生さんは40年も歴史を書いているけれど、「それを正しく、きちんと学」んでいないと、ケイトーは言いたいわけね?

いや。。。僕は塩野七生さんが正しいとか間違っているとか言おうとしているわけじゃない!
でも、塩野七生さんの考え方は正しくない!とケイトーは言おうとしているじゃない!
いや。。。そうではありませんよ。 正しいとか間違っているとかは時代によってコロコロと変わってしまいますからね。
まさかァ~。。。!
まさかじゃありませんよ! シルヴィーは次の名言を聞いたことがないの?
善悪不二(ぜんあくふに)
聞いたことないわ。 どういう意味なのよ?
あのねぇ~、簡単に言えば、「善悪の判断を越えて受け入れる」と言うことですよ。
「善悪の判断を越えて受け入れる」ってぇ、どういうことよ?
あのねぇ~、それを説明する前にシルヴィーに、もう一度尋ねたいのだけれど、次の名言を聞いたことがある?
人一人を殺して死刑になり、
人万人を殺して英雄となる
これならば聞いたことがあるわよ。
だったら、シルヴィーにも分かるでしょう? 善悪は時代によって違ってしまうのですよ。 戦争中には敵を一万人も殺せば必ず英雄になって勲章がもらえる。 でもねぇ~、平和の時には一人殺しただけでも死刑になってしまう。
でも、カナダには死刑はないわよね!?
死刑は廃止されました。 だから戦争のない世界だって作ろうと思えば作れる。
でも、戦争は無くならないでしょう!?
そう思ってしまうから戦争が無くならない。 死刑のない国も軍隊のない国もたくさんあるのですよ。
マジで。。。?
やだなあああァ~。。。シルヴィーは次の記事を読んだことがないの?

■『軍隊のない国』
(2011年3月21日)

まだ読んでないわ。

ぜひ、読んでみてよ。 軍隊の無い国が結構たくさんあるのだから。。。
だけど、北朝鮮が日本へ攻めてきたらどうするのよ?
武器を持たずに無抵抗主義で対抗するのですよ。
どうやってぇ。。。?
あれっ。。。シルヴィーは知らなかったの?
何を。。。?
何をってぇ。。。エストニアは第2次大戦で旧ソ連に占領されてから独立を勝ち取ろうとして、結局、武器に頼らずに歌声で独立を勝ち取ったのですよ。
マジで。。。?
あのねぇ~、僕はたまたま昨日(8月31日)バンクーバー図書館でエストニアのDVDを観た。


■『バンクーバー図書館カタログ情報』

このDVDを観るとねぇ、エストニア市民が旧ソ連によって歌ってはダメだと言われていた国民のフォークソングを歌いながら何十万人と集まって独立運動を盛り上げている。 旧ソ連は戦車を出動させて妨害しようとしたけれど、あまりにも人数が多いので結局戦車を出動させることができなかったと言う、いわくつきのシーンが出てきましたよ。 要するに国民の独立の歌声が戦車よりも強かったのですよ。 その時の様子が少しは次のYouTubeを観ると分かりますよ。
共産主義の崩壊-1989年
The downfall of communism
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つまり、軍隊が無くても独立を勝ち取れるとケイトーは言いたいのね?

その通りですよ。 仮に北朝鮮が攻めてきて日本が無抵抗で占領されてもエストニアのように独立を勝ち取ることはできるのですよ。
でも、夢物語のようね。
実際にエストニアくを含めたバルト三国は独立したではありませんか! だからねぇ、僕は次のように言いたいのですよ。
歴史に学べ

「歴史に学べ」という事を人はよく口にします。
確かに、きちんと学べば歴史は将来に、たいへん大きな教訓を投げかけてくれます。 反省の材料も提供してくれます。
戦争を繰り返すような過(あやま)ちを繰り返さないということが学べるわけです。
ただしそれは、私たちが「人類の平和と幸福のために、きちんと学べば」という条件のもとです。
その意思がなければ40年歴史を書いた作家と言えども、歴史はほとんど、その人に人類の平和と幸福の道を何も語ってはくれません。
(すぐ下のページへ続く)