感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

成人重症患者における早期経静脈栄養補充の経口栄養研究 (EPaNIC)

2012-12-17 | 内科
前回の続き。重篤疾患は摂食不良から深刻な栄養障害、筋萎縮、筋力低下、回復の遅延へ繋がる。Underfeedingは感染症や人工呼吸管理期間延長、死亡率に関連付けられる。 栄養補給の診療ガイドラインは主に専門家の意見に基いており、欧州と米国でも異なる点がある。欧州(ESPEN)はICU2日以内に十分に経腸栄養ENを受けれない患者では経静脈栄養PNを開始を薦め、米国ではベースラインで栄養障害のない患者での早期のPN開始は薦めていない。 この文献は両方の推奨法を2群に分けて臨床研究されたものである。


まとめ

方法
・前向き無作為化、並行群間、多施設試験
患者
・2007年8月1日から2010年11月8日まで、 7つ参加ICUに入院したすべての成人
・栄養リスクスクリーニング(NRS)で3以上のスコアを持っているもの
・ランダムにPN栄養の早期または後期開始に1:1の比率で割り当て

研究手順
・早期PN開始群は、20%グルコース溶液静注投与にて、総エネルギー摂取目標はICU1日目は400kcal/d、2日目は800 kcal/d、3日目からはPN栄養(OliClinomel or Clinimix, Baxter)が開始。 PN投与量は、経腸と経静脈栄養の総合カロリーで目標の100%とした。
・カロリー目標に関する計算は、理想体重、年齢、性別に基づき、タンパク質-エネルギーを含めていた
・経腸栄養で目標カロリーの80%をカバーしたとき、PNは減少停止された

・後期PN開始群は、十分な水分補給を提供するために、早期PN開始群で投与されたPNに等しい容量の5%グルコース溶液が投与された。
・ICUで7日後にENが不十分であった場合は、8日にPNがカロリー目標を達成するために開始された

・2日目までに経口摂取できなかったすべての患者は、経腸栄養(主Osmolite、アボット)を投与された。 すべての患者で消化管運動促進薬や十二指腸栄養チューブを使用した。
・80~110 mg/dlの血糖値を得るため持続的インスリン注入が調整された。

アウトカム指標
安全性エンドポイント
・生存状況 (≤8日間でICU退室時に生存していた患者割合、 ICUと入院中の死亡率、そしてICUや病院退院状態に関わらず90日目までの生存率) や合併症、低血糖の発生率

一次性有効性エンドポイント
・ICU日数 (生存者と非生存者用) とICU退室の時期、を評価

二次性有効性エンドポイント
・新規感染症患者数;  感染部位 (気道または肺、血、尿路、または傷) ; 抗菌薬治療期間;  血漿CRPの最大値; 機械的換気補助と気管切開から最終離脱までの期間;  RIFLE基準に従って定義された急性腎障害率; 腎透析の割合; 薬理学的または機械的な血行動態サポート期間
・肝機能検査 総ビリルビン値、γ-グルタミルトランスフェラーゼ値、アルカリホスファターゼ値、アラニンアミノトランスフェラーゼまたはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ値
・入院期間の長さと退院する時期を比較
・退院前に、6分間歩行距離による定量評価と日常生活自立患者の割合の評価

透析分析
・サンプルサイズの計算は、 少なくとも80%の力でICU滞在中の1日の群間の変化を検出する能力と、 そして同時に、少なくとも70%の力で、ICUでの死亡率は3%の変化を検出する能力に基づく。
・すべての分析は、intention-to-treatに基づいて行った
・データはカイ二乗検定、スチューデントt検定、またはノンパラメトリック•テストの使用にて比較
・time-to-event分析を実行するためにKaplan-Meier法を使用し、time-to-event効果の大きさは、Cox比例ハザード分析を用いて推定

・体格指数で示される高リスク患者 (<25または≥40)のため、またはNRSのスコア(≥5)、心臓手術を受けた人、入院時敗血症を持つ患者のため、事前に指定のサブグループ解析を行った。 これらは一次性アウトカムと安全性エンドポイントの解析をした。


結果

試験の介入
・4640名の患者がランダム化され分析された
・後期PN開始群は 平均31IU/日のインスリンが使用、平均血糖値は102mg/dl、早期開始群は平均58IU/日のインスリンで、平均血糖値は107mg/dl

安全性アウトカム
・両群で、90日時点の死亡率は類似
・後期PN開始群で、8日以内のICUからの生存退室率はより高い (この群でより低血糖が発生したにも関わらず)
・栄養に関連した合併症の発生率は両群で同等。 試験介入に起因する重篤な有害事象は認められず。

一次アウトカム
・ICUにおける滞在中央値は、早期PN開始群に比べ後期開始群では1日短かった。 ICUから生存退室の可能性は6.3%の相対的な増加に反映(hazard ratio, 1.06; 95% CI, 1.00 to 1.13; P=0.04)

二次アウトカム
・後期PN開始群でICUでの新規感染(気道または肺、血流、または傷口)はより少ないが、急性炎症反応は早期開始群に比べてより顕著
・機械換気と腎透析の施行期間は、後期開始群でより短かった
・入院期間の中央値は、早期開始群に比べて後期開始群では2日間短縮。 早期退院の可能性の6.4%の相対的増加に反映(hazard ratio, 1.06; 95% CI, 1.00 to 1.13; P=0.04)
・退院時の6分間歩行距離や日常生活活動機能の状態は両群で同様

サブグループ解析
・一次性アウトカムや安全性アウトカムには相違はなかった

・事後サブグループ解析では、早期経腸栄養法が外科的に禁忌とされた患者のため、PN早期開始と後期開始を比較した (肺合併症、または、食道、腹部、骨盤の手術を受けた患者で、 平均APACHE IIスコアは27±11であった517人の患者)。 感染率は早期開始群よりも(40.2%)、後期開始群で低かった(29.9%)(P = 0.01)。 後期開始群では、ICUから生存にて早期退室する可能性は20%の相対的な増加。


議論

・我々の結果は、より早期の栄養目標達成が重症患者の転帰を改善するという以前の観察研究の結論をサポートしていない
・最重症患者はしばしば経腸栄養を容認できない状態だったので、このような観察研究では原因と結果を区別することができなかった
・入院時のBMI、栄養上リスクの程度、敗血症の有無などの要因は結果に影響を及ぼさず、我々の調査結果は一般的な適用を持っていることを示す
・外科的に早期経腸栄養法が禁忌とされた患者サブグループでは他の患者よりも、後期PN開始法は大きなメリットを持っているように見える、おそらく早期開始群ではそのような患者はPNの最大量を投与されるからだろう。
・重篤疾患の初期段階での栄養の保留は、回復を向上させる。 推測だが、早期PN投与に関連付けられる感染および臓器不全から回復の遅延増は、細胞損傷や微生物の不十分なクリアランス、自家融解autophagyの抑制によって説明されるかもしれない。

・我々の研究には、特定の制限がある。 すなわち、 使用したPN栄養剤はグルタミン、特異的免疫調節剤のどちらも含んでいず、
一般的日常診療で用いられるPNを反映したもの、 標準化され予め混合されたPN栄養製品を使用しており比較的低いタンパク質 -エネルギー比であること、 カロリー量は間接熱量測定法を利用したエネルギー消費量を測定せずに算出したこと。

・重症患者におけるICU入室後の最初の1週の間、早期PN開始で不十分な経腸栄養を補完することは、ビタミン、微量元素、ミネラルを提供しながら8日目までPNを保留する戦略、に劣るように見える。


参考
N Engl J Med. 2011 Aug 11;365(6):506-17.

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