感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

Lemierre症候群とFusobacterium感染と

2015-09-15 | 感染症

5日前に咽頭痛ありその後発熱、頸部リンパ節腫脹で入院された10歳代男性(近医からはクラリス、ロキソニン)、伝染性単核球症疑いでしたが入院後ショック状態となりなんらかの敗血症も疑われ当科に相談され転科しました。左前頸部のみの痛みの訴えと診察で顎下リンパ節の腫脹圧痛と頸動脈にそった圧痛があります。採血でDダイマーが上昇しており、肺のCTでは小さなseptic emboli疑いとのことからフソバクテリウム感染も考慮し、頸部エコーおよび造影CTを施行(このときは内頚静脈内血栓なし)、抗菌薬を嫌気性菌狙いに変更しましたところ敗血症は改善してきています。転科3日目には嫌気ボトルで菌は生えつつあり、再検のエコーにて内頚静脈内血栓を認めました。レミエール症候群について調べてみました。

→過去のブログ記事「フソバクテリウム感染症、とくに髄膜炎について」も参照

 

まとめ

 

・Fusobacteriumは頭頸部感染症の原因として知られ、急性および慢性中耳炎、副鼻腔炎、乳様突起炎、扁桃腺炎、後咽頭膿瘍、Lemierre症候群、 post-anginal頸部リンパ節炎、歯周炎を起こし、また、頭頸部感染症関連の脳膿瘍や菌血症を引き起こす。

・fusobacteriumは、厳格な嫌気性グラム陰性、薄い、長い、糸状、非運動性、および非胞子形成の菌

・fusobacteriumは、口腔内の常在菌叢の一部である

・他のグラム陰性嫌気性細菌とは異なりFusobacteriaeは一次性病原体としてヒト宿主に侵入することができる。正常皮膚粘膜障壁の破壊の結果として組織浸潤につながる。

・ウイルスまたは細菌性咽頭感染は結果として中咽頭の局所性免疫防御機構を減少させ、粘膜の細菌の侵入を可能にする

・これは、エプスタイン・バーウイルス咽頭炎、または化学療法と好中球減少による粘膜炎に続発しうる。またF. necrophorumisは細菌性病原体では唯一A群β溶血性連鎖球菌(GABHS)に続発して感染しうる。

・興味深いことに、F.necrophorumは同時に他の病原体とともに見られる。C/G群の連鎖球菌はF.necrophorumの高頻度と関連を認める、とくに再発性扁桃炎で。

 

・1936年André Lemierreは主に頸部の拡張と複数の肺膿瘍形成を伴う口腔咽頭感染に関連する嫌気性敗血症の20例のシリーズを報告した。

・Lemierre症候群は咽頭の感染症と内頸静脈(IJV)またはその支流(扁桃周囲静脈叢、顔面静脈や前頸静脈、外頚静脈)の血栓症、遠隔の敗血症性塞栓に関連付けられるまれであるが重篤な疾患。

F. necrophorumはLemierre症候群を引き起こす最も一般的な種であるが、その他のfusobacterium、Prevotella Bacteroides Peptostreptococcus sppが単独または併存で分離されうる。

・この疾患の発生率は咽頭感染の設定において抗菌薬カバレッジなしで抗炎症薬の乱用にて増加しうる。細菌感染の広がりを促進する上でのNSAIDの影響の仮説は実験的研究に基づいている。Solbergらの研究ではin vitroでこれら薬剤は顆粒球活性化、食作用、および連鎖球菌やブドウ球菌の細胞内破壊の減少を示した。[J Infect Dis. 1987 Jan;155(1):143-6.]

・治療開始された口腔咽頭感染症の48時間後での体系的な再検討は必要と思われる。39℃以上のような高熱持続の場合には口腔咽頭の嫌気性菌感染を考慮するべき。

 

・Lemierre症候群の臨床所見は、咽頭痛、発熱、悪寒(この疾患の顕著な特徴)、頸部腫瘤と痛み、開口障害、頸部の血管系に沿って圧痛、倦怠感、食欲不振、胸の痛み、息切れ、咳、および衰弱

・症例の大部分は、免疫不全または免疫抑制の注目すべき歴のない若年成人で、2/3では年齢は16〜25歳の間。

・以前に健康な思春期の男性に起こり、通常、喉の痛みを発生し、続いて 4または5日目に発熱や悪寒、そして、痛みを伴う首の腫れ (これは多くの場合、誤って リンパ節腫脹に起因とされる)

Lemierre症候群は2つの臨床段階で進展する; 第1段階は口腔粘膜咽頭感染症(± 扁桃周囲膿瘍、発熱、頸部リンパ節腫脹の兆候)(症例の2/3では発症時に咽頭感染が存在)、第2段階は、内頚静脈(IJV)の血栓性静脈炎と副咽頭空間に感染の広がり、および敗血症。この段階では口腔咽頭感染に対する同側での胸鎖乳突筋前方の痛みを伴う皮膚硬結と 炎症。さらに胸骨上および/または鎖骨上領域に皮膚炎症拡大を探す。

・septic塞栓は内頸静脈血栓に由来し、簡単に播種し、肺は転移の最も一般的な部位である。

・別の皮膚所見は胸鎖乳突筋前部に圧痛のある触知可能なコードで、IJV血栓症のマーカーとして文献に記載されている。

・第1および第2の位相の間の時間遅延は一般的に4~8日。

・一次感染はリンパ節炎や感染性単核球症に関連しており自然歴の中で些細であり簡単に見落とされる。

・Lemierre症候群の診断の遅れは、珍しいことではないし、最初の徴候は非常に非特異的でありうる。

・播種性血管内凝固はケースの23%で存在

・十分な治療の遅れは、この疾患の罹患率及び死亡率を増加させる

・Shiberらは内頸静脈血栓症を欠きそれ以外のLemierre症候群のすべての基準を満たしている侵襲性Fusobacterium感染のケースを提示し、“不完全Lemierre症候群”とした。疾患成立の同様な機序、罹患率、予後、および治療法であり、不完全型の認識が大切。[Pediatr Emerg Care. 2015 Jan;31(1):39-41.]

 

造影CTスキャンはIJVまたはその支流の血栓症を診断するため最適な検査。ドップラー超音波も診断のために使用することができるが、舌骨の下の頭蓋底と頸部領域は下顎骨のため超音波検査はアクセスできず、また組織化された血餅の欠如した間近の血栓は見逃されるおそれがある。

 

フソバクテリウム属のβ-ラクタム系抗菌薬耐性は増加している。主にペニシリナーゼの産生によるもの。多施設調査では9%のペニシリン耐性を発見。また多くのフソバクテリウム属はセファロスポリナーゼ生産のためセファロスポリンに耐性である。マクロライドは不良な効果。テトラサイクリンは様々な活性、チゲサイクリンでは耐性は見つかっていない。クリンダマイシンに対する耐性も指摘(8-31%)。メトロニダゾール耐性はまれ(<1%)。しかしより最近の研究ではメトロニダゾール耐性F. nucleatumが9%示された。メロペネム(8%)及びイミペネム(4%)に対する耐性あり。

 

・fusobacterial感染の最適な管理は、常に適切な抗菌薬治療および、時に外科的介入とドレナージが含まれる。

・超音波またはコンピュータ断層撮影スキャンが化膿巣を検出することができる。

・Lemierre症候群は、この疾患の希少性から前向き研究を行いにくく、最適な抗菌薬治療は知られていない。

・ほとんどの著者はペニシリンや第2または第3世代セファロスポリンと、 メトロニダゾールの併用治療を勧めている

・デンマークと英国では、勧告はペニシリンおよびメトロニダゾールの併用を勧めている[Anaerobe. 2006 Aug;12(4):165-72. ][ Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2008 Aug;27(8):733-9.]。

・耐性であるため、macrolids(例えば、エリスロマイシンおよびアジスロマイシン)は避けるべきであることに留意すべき

・抗菌薬の静脈内投与による治療期間は2~4週間で、これは経口投与が続く。

・幅広い抗菌カバレッジは、黄色ブドウ球菌、溶血連鎖球菌、及びβ-ラクタマーゼ産生嫌気性グラム陰性桿菌を含む、すべての潜在的な好気性および嫌気性病原体を、カバーするために必要とされる。

・クリンダマイシン、ペニシリン/β-ラクタマーゼ阻害剤配合剤は、歯科、口腔咽頭用の治療、または肺感染症として使用され、メトロニダゾールを加えた第三世代セファロスポリンは中枢神経系感染症のために使用される。

・併用治療の効果は歯周炎例で一部のF. nucleatum株にアモキシシリンとメトロニダゾールとの間で観察された。[Arch Oral Biol. 2014 Jun;59(6):608-15. ]

 

・Lemierre症候群は、抗凝固薬の使用を必要とするかもしれません。しかしながら、これらの薬剤の使用は論争がある。

・血栓症は、多くの場合は、抗菌薬単独治療で解決する。

・それはおそらく、血栓のフラグメント化のため敗血症性塞栓の播種が促進され得るとき、頭蓋内血管、特に海綿静脈洞血栓への逆行性拡大の場合には推奨されたまま。

 

 

参考文献

Int J Pediatr Otorhinolaryngol. 2015 Jul;79(7):953-8.

Head Neck. 2014 Jul;36(7):1044-51.

Anaesth Intensive Care. 2007 Oct;35(5):796-801.

Expert Rev Anti Infect Ther. 2011 Feb;9(2):227-36.


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1 コメント

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Unknown (Unknown)
2020-06-10 22:31:17
レミエール症候群になった24歳男です

本当に的確な内容でした
内容通りの症状でした
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