感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

白血球増加をきたす病態

2016-07-27 | 内科

総合内科からの相談例で、ALSにて長期人工呼吸中の方の、数日の食思不振/絶食後、アシドーシスの進行、白血球増多にて入院され、著明な白血球数の増加あり(WBC数3万台)その病態を検討しています。もともと糖尿病はなく入院後経過からもDKAは考えにくく、入院時血液ガスから乳酸値増加なく、しかしAG開大あり、飢餓によるケトアシドーシスが考えられました。発熱やCRP上昇伴わず、前後に感染症徴候なく感染症によるWBC増加も考えにくそうです。白血球著増はアシドーシスとどういった関係にあるのか? 白血球増加をきたす病態についてまとめました。 類白血病反応、辺縁趨向、周縁流などのキーワード。

 

まとめ

・白血球増加または上昇した白血球数は一般的によく遭遇する検査結果。悪性または良性の白血球増加の区別は非常に異なるdecision tree(方針決定の流れ)を開始し患者ケアにおける重要なステップ。完全な血球数およびWBC差の確認は、最初のステップ。

・骨髄性白血球増加は、顆粒球増加(すなわち、好中球、好酸球増加、および好塩基球)、または単球増加を表す

・反応性好中球増加は、好中球の産生の増加、 白血球の脱周縁流demargination、または好中球の末梢循環から組織への流出を減少、からの結果である。

 ※margination 辺縁趨向、周縁流 … 白血球が血管内皮細胞表面に停滞。血管内壁側に集まる現象  ⇔ demargination:血管壁にくっついていた好中球が脱落し末梢循環に入る。

 

白血球増加の病態生理学的メカニズム

正常な骨髄応答: 感染症、 炎症:組織壊死、心筋梗塞、火傷、関節炎、 ストレス:過度の運動、てんかん発作、不安、エピネフリン投与、麻酔、 薬剤:コルチコステロイド、リチウム、βアゴニスト、 外傷:脾臓摘出術、 溶血性貧血、 類白血病悪性腫瘍

異常な骨髄応答: 急性白血病、慢性白血病、骨髄増殖性疾患

 

・脾臓摘出術は、数週間〜数ヶ月続く一過性白血球増加を引き起こす。溶血性貧血、白血球の産生および放出における非特異的な増加は、増加した赤血球細胞産生に関連して発生する。

・通常の脾臓は白血球の多数を保持しているため、 無脾症は増加WBC数と関連している。

・一般的に白血球増加に関連付けられている薬品は、コルチコステロイド、リチウム、およびβアゴニストがある。ステロイド投与は、典型的には脱周縁流増加と循環から退出の減少を起こす。リチウムは、内因性コロニー刺激因子(CSF)の産生を増加させることにより、好中球増加を引き起こす。

・白血球増加はまた、物理的および感情的ストレスの結果として発生する可能性がある。 これは一時的な過程で、それは 骨髄産生または桿状核球または他の未熟細胞の放出に関連していない。一般的にトリガーの除去数時間以内に反転する。ストレス性白血球増加は好中球のカテコールアミン誘発性の脱周縁流demarginationに起因すると推定され、場合によっては、βアドレナリンアンタゴニストで前処理することによって防止することができる。 [Br Med J (Clin Res Ed) 1987; 295: pp. 1135-36][Psychiatry Res 1988; 25: pp. 243-251]

 

偽性好中球増加症Pseudoneutrophiliaは、 運動、エピネフリン、または麻酔による顆粒球のdemarginationから生じ得る。

・慢性特発性好中球増多症(CIN)は、正常な骨髄を伴い11,000 /μL から40,000 /μLの著明な白血球増加を示す。喫煙と肥満は、大幅にCINに関連付けられており、原因かもしれない。

・溶血性貧血および特発性血小板減少性紫斑病は、骨髄の全般的な刺激をもたらし、いわゆる溢出spillover白血球増加症をもたらす。

・末梢血中の骨髄球またはそれ以下成熟顆粒球形態の存在は、基礎となる血液悪性腫瘍または重度の外傷を提起する必要がある。

幼若顆粒球(すなわち、前骨髄球、骨髄球、および後骨髄球)、(すなわち末梢血PB中の左シフトの指標である)は、反応性好中球増加や、CMLのような骨髄性新生物のいずれかでもみられうる。

・左シフトが有核赤血球(すなわち白赤芽球)塗抹所見を伴っているとき、腫瘍または線維症などのBM-浸潤プロセスを提示しうる

活性化好中球所見(例えば、中毒性顆粒、Dohle小体、および細胞質の空胞)は、細菌感染または細菌からの成長因子を有する患者で見られるような反応性好中球増加でより特徴的。

・反応性好中球増加が好むその他の特徴は、 血中の好中球細胞質の断片、 血小板増加、および好塩基球の欠如で; 好酸球増加症および単球増加が存在してもよい

 

類白血病反応Leukemoid reactions (LR)、最初に1926年にKrumbbarrによって報告された[Am J Med Sci.1926;172:519–533.]。 これは、白血病疾患の結果ではなく、臨床的変化が白血病の人に起こるものに類似した末梢血中に見出される症候群。

・著明な白血球増加(通常、50,000〜100,000 /μL)を表し、末梢血中の好中球の成熟のすべての認識の段階を含むことができる。

過剰白血球増加症Hyperleukocytosisは、100,000/μLを超えるWBCカウントを指し、そして、白血病および骨髄増殖性疾患でほぼ独占的に見られている

・好中球LRは、慢性骨髄性白血病(CML)、急性骨髄性白血病、慢性好中球性白血病、および骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍との形態学的重複を示す。

・好中球LRはほとんど白血球数> 50×109 / Lを持っていないのに対し、CMLは、はるかにその値を超えうる。

・LRは 典型的に 数時間から数日で良性または悪性のいずれかの条件によって引き起こされうる

・LRは、重症感染症、中毒、悪性腫瘍、重度の出血、または急性溶血などの多くの疾患で発生する可能性がある。

・LRは、種々の感染症(結核など)、中毒(アセトアミノフェンなど)、悪性疾患、出血および突然の溶血、に関連して報告

・LRの正確なメカニズムは明らかではない。遺伝的欠陥(モザイクトリソミー21など)又は異常なサイトカイン産生が、非常に高値の白血球数の原因であるかもしれない。

・いくつかの研究は、悪性腫瘍、慢性感染症または先天性の遺伝的欠陥による無秩序な炎症性サイトカイン産生がヒトにおけるLRを誘発することが示唆した。

・IL-1、IL-6、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子および顆粒球コロニー刺激因子は、類白血病反応の形成に関与と報告

・骨髄性LRは、一般的に感染症に起因しており、そして形態学上での活性化した好中球の変化を示す; これらは、感染のための評価を行うべき。感染症(細菌、ウイルス、マイコバクテリア、またはトレポネーマ)で一般的に見られる。

クロストリジウム・ディフィシル(CD)感染症や結核患者の一部はWBCとの類白血病反応が50,000 /μLよりも大きいカウント現れることがある。

・CD腸炎は白血球増加と関連し、入院成人の9%はWBC数15×109 /Lを超えている。MarinellaらはCDIはLRと関連していると報告[South Med J 2004; 97: 959-63.]。WBCの35×109 /Lより大きいCDI患者は予後不良とされる。

・感染症といっても逆に、腸チフス、ブルセラ症、野兎病、リケッチア症、エールリヒア症、リーシュマニア症、および黄色ブドウ球菌感染症のいくつかの例は、白血球減少症に関連するかもしれない。

 

・抗痙攣薬フェノバルビタールの投与後に過敏症症候群をきたし、発熱、発疹、肝障害および白血球増加を示した症例の報告。最も高い白血球数は、 127.2 ×109 /Lまであった、末梢血中の24%の異型リンパ球がみられた。[Int J Clin Exp Pathol. 2013;6(1):100-4.]

・スルファサラジンへの薬物過敏症反応とEBVの同時感染に関連し、極端なLRや肝障害をきたした症例を報告。[Ann Hematol. 2004 Apr;83(4):242-6.]

・エチレングリコール中毒におけるLRの報告。[Vet Hum Toxicol. 2002 Oct;44(5):304-6]

・経口ミノサイクリン投与にて、顕著なLR(WBC 82300/μl)と肝炎をきたした症例。[South Med J. 1983 Sep;76(9):1195-6.]

 

ケトアシドーシスとWBC増加/LR

・1型糖尿病とDKA例の38例の小児、入院時、WBC、PMN、IL-6およびIL-10のレベルは上昇したが、すべてケトアシドーシスの管理の後120時間以内に減少した。感染の存在せず、及び白血球は好中球増加が観察。[Clin Biochem. 2012 Nov;45(16-17):1383-8.]

・高血糖危機糖尿病性ケトアシドーシスと非ケトン性高血糖が拮抗作用ホルモンや炎症性サイトカイン、脂質過酸化のマーカー、および酸化ストレスの上昇と関連。本研究で非DM被験者におけるインスリン誘発性低血糖症は、増加した炎症性サイトカイン (TNF-α、IL-1β、IL-6、およびIL-8)、脂質過酸化のマーカー、 ROS、および白血球増加。と関連していた。[Metabolism. 2009 Apr;58(4):443-8.]

・ケトアシドーシスで入院した劇症1型糖尿病例、WBC数は、末梢血中に未成熟白血球を伴って57,500 / mlと非常に高かった。治療に伴い白血球数は入院後5日目に標準化した。[Intern Med. 2008;47(9):847-51.]

・糖尿病性ケトアシドーシス例。60,970 /mm3以上に達して著しい白血球 増加を示した。そして5日以内に4140 /mm3のレベルに収まった。全臨床経過にて、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の上昇は観察されなかった。[Intern Med. 1993 Nov;32(11):869-71.]

 

 

参考文献

Int J Lab Hematol. 2014 Jun;36(3):279-88.

Hematol Oncol Clin North Am. 2012 Apr;26(2):303-19,

Hematology Am Soc Hematol Educ Program. 2012;2012:475-84.

 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。