感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

抗菌薬の 副作用と薬物相互作用

2012-09-13 | 感染症
抗菌薬の有害反応と薬剤相互作用に関するレビュー。論文をまとめる機会があったので、読んだ。おさらいといった内容が多いが、有害事象の誘因など参考になるところもあった。臨床的問題にあたった場合常に薬剤性も鑑別に上げる重要性は言うまでもないが、簡単に抗菌薬のせいにして(他の臨床的要因をあまり考慮せず)抗菌薬を変更し、最適な感染症治療から遠ざかったり、広域抗菌薬乱用につながるのも避けたいところ。


まとめ

・薬物使用に関連する有害事象として、アレルギー、毒性、副作用が含まれている
・アレルギーは、 薬剤に対する過敏反応である。多くはIgE媒介性であり、薬剤投与直後に発生する
・IgE媒介性1型過敏反応の例として、早期発症蕁麻疹、アナフィラキシー、気管支痙攣、血管性浮腫など
・非IgE介在性反応として、溶血性貧血、血小板減少症、急性間質性腎炎、血清病、血管炎、多形滲出性紅斑、スティーブンス•ジョンソン症候群、中毒性表皮壊死症などが含まれる
・毒性は、一般的に、過剰な投薬や薬物代謝障害のどちらかによるもので、宿主により生理的に"処理"することができるものを超えて大量に薬物を投与した結果である。
・過度投与によって引き起こされる毒性の例としては、ペニシリン関連の神経毒性(例、痙攣、癲癇発作)、アミノグリコシド毒性など
・副作用は、免疫学的媒介でもなく薬物毒性のレベルに関連するものでもない有害事象。
・例では、エリスロマイシンによって消化不良が引き起こされる

アナフィラキシー
・アナフィラキシーは急性過敏症反応で、即時蕁麻疹、喉頭痙攣、気管支痙攣、低血圧、死亡に至ることある
・β-ラクタム系薬が、他の抗菌薬より頻繁にこれらの反応に関連付け。といってもアナフィラキシーリスクがペニシリンでは約0.01%
・ペニシリンアレルギー既往のある患者の約4%においてセファロスポリンに反応を示す(しかしアナフィラキシーは稀)
・ペニシリンとカルバペネム系薬との交叉反応の発生率は、最も最近の研究では、低率

心毒性
・抗菌薬の心臓に関する有害反応は、ほとんどは心室性不整脈を伴うQT延長症候群
・QT間隔を延長させる抗菌薬として、マクロライド、一部のキノロン、アゾール、ペンタミジン、など
・臨床医は、500msを超えるベースラインQ-Tc間隔の患者へは、別の抗菌薬使用を検討すべき
・Q-Tc間隔の延長を引き起こしうる抗菌薬を投与中、Q-Tc間隔が30-60ms以上増加、または500ms以上になったなら、別の抗菌薬を検討すべき

腎毒性
・薬剤性の腎障害メカニズムとしては糸球体濾過量の減少、急性尿細管壊死、間質性腎炎、尿細管内への薬物の結晶の沈殿が含まれる。ICUなどで使用されている多くの薬剤が影響を与えうる
・抗菌薬に関しては、アミノグリコシドとアムホテリシンは、急性腎不全に関連付けられている典型的な系統
・アミノグリコシド誘発性急性尿細管壊死は通常、非乏尿性で可逆的
・アミノグリコシド誘発性腎毒性に寄与する要因は、用量、治療期間、他の尿細管毒性のある薬剤の使用 、アミノグリコシドのトラフ値の高値
・メタアナリシスにて、アミノグリコシド1日1回投与法が伝統的な1日複数回法よりも腎毒性が低い
・アムホテリシンBを投与する前に、ナトリウム不足を改善し体液量状態を最適化しておけば、薬剤誘導腎毒性のリスクを減少させることができるかもしれない

凝固系
・栄養失調、腎不全、肝不全、悪性腫瘍、薬剤はすべての出血素因となりうる
・肝プロトロンビン合成を妨げうるN-メチル-チオテトラゾール基が含まれるセファマンドール、モキサラクタム、セフォペラゾン、セフメタゾール、セフォテタンなどはPT-INR延長をきたしうる
・抗菌薬はまた、正常な腸内フローラに影響を与え、それによりビタミンK吸収を阻害することでINRを延ばすことがある

皮膚毒性
・事実上すべての抗菌剤は、発疹を引き起こしうるが、発疹はβ-ラクタム系薬、スルホンアミド、フルオロキノロン系、およびバンコマイシンで最も一般的
・重篤な薬物反応を疑うべき所見としては、顔面浮腫、蕁麻疹、病変の粘膜への波及、触知可能または広範囲な紫斑、水疱、発熱、リンパ節腫脹がある
・スティーブンス•ジョンソン症候群は、粘膜へ病変が及ぶ多形滲出性紅斑で、最も一般的に関連しうる抗菌薬は、アミノペニシリンとスルホンアミド
・感染症では、肺炎球菌、マイコプラズマ、およびブドウ球菌感染症などで同じような発疹を引き起こす可能性がある

聴器毒性
・アミノグリコシドは、患者の10%~22%に聴器毒性や前庭機能不全を引き起こし、この副作用は永続的の可能性も
・アミノグリコシド誘発性の第Ⅷ脳神経機能不全に関連付けられている要因は、投与用量、投与頻度、治療期間、高齢者、発熱、貧血、ベースラインのクレアチニンクリアランス、および他の聴器毒性をもつ薬剤の併用
・エリスロマイシンとアジスロマイシンは、両側の難聴や内耳性機能不全引き起こす可能性があり、薬剤を中止すれば通常2週間以内に可逆的に回復

電解質異常
・アムホテリシンBは、臨床的に有意な低カリウム血症、低マグネシウム血症、腎尿細管性アシドーシスを引き起こす可能性がある
・水性ペニシリンGは、一般的にカリウム塩(ペニシリン百万単位あたり1.7 mEq のK+)を含有する。
・1日あたり2000万単位以上の用量で、(特に腎不全患者)臨床的に有意な高カリウム血症を呈することがある
・静注ペンタミジンの使用は潜在的に生命危機的な高カリウム血症に関与しうる

抗菌薬関連下痢
・ICUにおいては、下痢のその他の原因は、栄養補給、他の薬剤、基礎疾患、虚血性腸が含まれる
・クロストリジウム•ディフィシルは、現在院内発生下痢症の最も一般的な識別可能な原因
・ほぼすべての抗菌薬が関与しうるが、最も一般的なCディフィシル下痢の原因薬剤は、セファロスポリン、フルオロキノロン系、クリンダマイシン、アンピシリン
・ICUでは、下痢、腹痛、発熱、白血球増加に対して他の多くの理由があるかもしれない。 患者を識別し、Cディフィシル大腸炎の臨床予測因子としては、(1)初期の抗菌薬開始後6日以上たっての下痢の発症、(2)病院滞在期間が15日以上、(3)顕微鏡下での便白血球の観察、(4)泥状便の存在(水様便と対比して)
・診断法としては、感度が低い(~67%)が迅速に行える酵素免疫測定法と、感度はいいが(~90%)検査に時間のかかる組織培養アッセイ法によるもの


参考文献:
Crit Care Clin 24 (2008) 421–442

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3 コメント

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Unknown (99)
2012-09-13 22:32:29
心毒性はQ-Tc間隔が30-60ms以上増加、または500ms以上を目安にしているのですか。勉強になりました。
返信する
勉強になりました (植村 直史)
2012-09-14 17:15:39
こんにちは。
ファイザーの植村です。
とても興味深く読ませていただきました。
要点がまとまっていて、わかりやすく、良かったです。
今後ともよろしくお願いいたします。
返信する
ありがとうございます (志智)
2012-09-14 18:14:26
植村さん、コメント有難うございます。ブログ開設分かりました? いろいろ書き込んで行きますので、よろしくお願い致します。
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