感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

抗菌薬アレルギーについて(βラクタム)

2015-03-20 | 感染症

前回に続きまして抗菌薬アレルギーについて。今回はセファロスポリンなどペニシリン以外のβラクタム薬です。ペニシリンと一部のセファロスポリン薬との間に交差アレルギーはあるようですが、臨床的にどの程度有意なのかはまだよくわかっていないようです。ペニシリンと第一世代とは交差しやすいとは以前からいわれていますが、cephalexinなどとの反応が示されていますが、セファゾリン自体はあまり他の薬とは交差しないようですね。おそらくR1、R2側鎖の類似性が重要となるということでしょうか。

 

 

セファロスポリン

 

・セファロスポリンについては、現在までにペニシリンとの間の交差反応性の程度はかなりの不確実性の問題のままである。

・IgE、IgMおよびIgG抗体を評価した免疫アッセイで動物およびヒトの両方における研究で、ペニシリンと第一世代セファロスポリンの間の交差反応性は実証されている。しかし一般にこれらの臨床的交差反応性の程度はin vitro交差反応性よりもはるかに低い。

・ペニシリンやセファロスポリンを受けたほとんどの患者は、任意の有害反応を経験することなく、特定のIgGおよびIgM抗体が生成される。患者におけるそれらの検出は、臨床的相関関係がない。

 

・ペニシリンアレルギー歴を持つ2387人の患者を分析したメタ分析では、第一世代セファロスポリン(cephalexin,cefadroxil)及びCefamandoleへのアレルギー反応のリスクは4.79のオッズ比で増加した(95%信頼区間3.71-6.17)。これらはペニシリンと共通の側鎖をもつ。

・第二世代セファロスポリンのアレルギー反応のオッズ比は1.13(0.61-2.12)、第三世代セファロスポリンのオッズ比は0.45(0.18-1.13)。これらはペニシリンおよびアモキシシリンとは異なる側鎖を有する 。

 

・ペニシリン・セファロスポリンアレルギーはβラクタム環に対する反応によるものではない。ペニシリンβラクタム環は体内の代謝の間に開くがそれはセファロスポリンβラクタム環のように断片化されない。ペニシリンおよびセファロスポリンの両方のβラクタム環部分はおそらく潜在的な抗原性化合物を形成する側鎖構造に沿って切断される。

・セファロスポリンリングは生体内での天然構造を維持しない、R1とR2側鎖を維持しつついくつかの部分に分割され、ペニシリン結合タンパク質の構造的完全性を妨害するように作用。

 

・R1側鎖は、第二及び第三世代セファロスポリンに対するアレルギー反応の特異性を決定する上で主要な役割を果たしているようである。

・セファロスポリンの間で交差反応性は側鎖、R1及びR2の類似性によるものと思われる。

・in vitro試験からの証拠で、交差反応は 同一または類似のR1側鎖を有するセファロスポリンとの間でと、同様のR2側鎖を有するセファロスポリンとの間で、起こることを実証されている。(CefotaximeとCeftriaxone、CefuroximeとCefotaxime、など)

 

・Pipetらは過敏症データベースからのデータを使用してセファゾリンに対するIgE媒介反応患者のコホートを研究し、合計10名が同定された。うち8名が他のセファロスポリン薬のチャレンジテストがなされたが陽性反応が認められなかった。このコホートでは大多数がアモキシシリンを許容し数人の患者は他のセファロスポリンを許容した。セファゾリンのR1側鎖はメチレン基CH2を経由したアミド官能基にリンクされたヘテロ環で、他に同様の側鎖で商業的に利用できるセファロスポリンは存在しない。

 

 

βラクタムの側鎖は、即時型と遅延型のアレルギー反応の両方において主要な役割を果たす。

・ペニシリン間においては有意な免疫学的交差反応性が臨床的にあるが、厳密に側鎖を共有するこれらの特定のβラクタムの可能性を除いては、臨床的に有意な特定のペニシリン、セファロスポリン、および他の非ペニシリンβ-ラクタムとの間の免疫学的交差反応性ははるかに少ないかまたは可能性はない。

 

・セファロスポリンの正確なアレルゲン性決定基はまだ同定されていない。セファロスポリンの主要な決定類似体は皮膚試験試薬として、現在利用可能ではない。セファロスポリンアレルギーのための皮膚試験の有用性は限られている。

・Empedradらは皮膚に非刺激性であるfree, whole薬物濃度を用いて陽性皮膚試験結果の誘発を提案し、 薬剤特異的IgE抗体が存在し得ることを示唆している。(10倍希釈の0.02ml皮内注射)

 

ペニシリンアレルギーの既往歴がある患者で、セファロスポリン系抗菌薬を必要とする場合は、 1. 非βラクタム系抗菌剤を使用する(VCMなど、ただし乱用や耐性のリスク)、2.ペニシリン皮膚試験なしでセファロスポリン系抗菌薬を使用(ペニシリンへの反応がアナフィラキシーではなかった場合は第二または第三世代セファロスポリン選択は合理的)、3.ペニシリン皮膚試験を行い試験陰性患者にはセファロスポリンを投与、陽性なら非βラクタム薬選択か、必要に応じて脱感作して使用。

 

 

その他βラクタム薬

 

・二つのレトロスペクティブ研究では、ペニシリン皮膚試験結果の報告なしに、ペニシリンアレルギーの既往歴のある患者を調べた。これらの患者ではカルバペネムを投与した場合、反応頻度が2つの文献でそれぞれ11%及び9.2%であった。

・ペニシリンおよびセファロスポリンの両方に陽性の皮膚試験結果を有する例においてペニシリン及びカルバペネムとの間の交差反応性の低い率が存在(0.8%-1%)。

 

・陽性ペニシリン皮膚試験の20人の患者で、アズトレオナム治療用量で治療後、いずれもIgE媒介反応を示さなかった。

・アズトレオナムの側鎖はセフタジジムと同様であるので、これらのアレルギー反応を有する個体にそれぞれを投与しないほうが賢明。

 

 

・より最近の文献は、特にβラクタムに関して、適切な抗菌薬アレルギーのin vitroおよびin vivo試験によるその後の抗菌薬アレルギーの“de-labeling”は、広域スペクトル抗菌薬の使用、コスト、入院期間の長さ、および死亡率を減らすことができることをサポートしている。

・米国アレルギー・喘息・免疫学会議は、2012年の「医師と患者は問題とすべき10の事柄」の10番目として、ペニシリンアレルギーの既往歴のある患者では適切な評価せずに非βラクタム系抗菌薬は使いすぎないようにしてください、としている。

 

 

 

参考文献

Curr Allergy Asthma Rep. 2013 Feb;13(1):64-71.

Clin Rev Allergy Immunol. 2013 Aug;45(1):131-42.

Curr Opin Infect Dis. 2013 Dec;26(6):526-37.

J Allergy Clin Immunol Pract. 2014 Jan-Feb;2(1):3-12.

Curr Allergy Asthma Rep. 2014 Sep;14(9):459.

Curr Allergy Asthma Rep. 2014 Nov;14(11):476.

Clin Exp Allergy. 2011 Nov;41(11):1602-8.


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