感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

侵襲性 Streptococcus anginosus群感染症

2017-03-16 | 感染症

前回の続きで脾膿瘍の症例では血液培養からStreptococcus intermediusが検出されました。臨床診断ありその後培養結果が出た場合はその菌の特徴と臨床状況が合うのかを振り返ると共に、他に予想される合併感染症を検討し検索しないといけません。anginosus群(SAG)の感染症についてまとめました。

 

まとめ                                

・Streptococcus属菌種は大きく分けて 6つのクラスター,すなわち pyogenic group,mitis group,anginosus group,salivarius group,bovis group,mutans group に分けられる

・Streptococcus anginosus群(SAG)は、S.intermedius、S.anginosusおよび, S.constellatus subsp.constellatus, S.constellatus subsp.pharyngitis,の 3 菌種 2 亜種が含まれている。

・SAGは、 milleri groupとして長く使われてきたが,時にグループ名ではなく,菌種名のごとく表記されることがあるなど,その分類に混乱をきたす可能性があったため,anginosus group という名称が新たに提唱され国際命名委員会で承認された。

 

・このグループの菌株は嫌気培養あるいは炭酸ガス培養で非常に発育が促進されることから,微好気性連鎖球菌(microaerobic streptococci)と称されることがある

・SAGは、口腔、泌尿生殖器系および胃腸管を含む様々な粘膜部位に見出される。

・S. intermediusのほぼすべての菌株(93%)は非溶血性(α- またはγ-溶血性)である

・溶血性およびランスフィールド型のグループ化反応に基づく連鎖球菌の同定および分類は煩雑であり、鑑別能力に欠ける。Whileyらは SAGをよりよく区別するために表現型の方法を開発した。これらの表現型試験に基づいた市販のシステムが広く使用されており、各種のより迅速な特徴付けを提供するが、その精度は様々である。

・SAGのメンバーは、表現型の特徴に基づいて区別することが困難である。 [Clin Infect Dis. 2001 May 15;32(10):1511-5.]

 

・SAGのメンバーは、口腔咽頭、消化管および泌尿生殖器の菌叢の常在菌として一般に見出されるが、病原性となり粘膜損傷後に連続感染または遠隔感染を引き起こす可能性がある。

・SAGは、浸潤性の発熱性感染を引き起こす能力が広く知られている。

・これら菌による播種性感染症の報告はごくわずか

・GiulianoらはPubMed検索し12件のSAGの播種性感染症例報告を検討した。歯科感染症、悪性腫瘍、胃腸管および気道疾患などの根底にある病気は、症例の42%を占めていた。67%の患者で陽性の血液培養が認められたにもかかわらず、明確な心内膜炎は認められなかった。[Infez Med. 2012 Sep;20(3):145-54.]

 

・SAGの異なるメンバーとの感染にて様々な臨床的疾患が関連している。

S.intermediusは脳および肝臓の向性を有するが、S.anginosusおよびS.constellatusは広範囲の部位および感染から単離されている。

・S. intermediusは脳および肝膿瘍からより一般的に単離され、S.constellatusおよびS.anginosusは尿生殖器、胸膜肺および胃腸の関与によりより広い分布を示す。 [J Clin Microbiol. 1992 Jan;30(1):243-4.]

 

・他のビリダンス連鎖球菌とは異なり、SAGのメンバーは、浸潤性の発熱性プロセスを引き起こす十分に認識された能力に関与する可能性が高い特異的ビルレンス因子を示す。

・SAGは、それらが産生するビルレンス因子に関しても異なる。例えば、酵素α-N-アセチルノイラミダーゼ(シアリダーゼ)およびヒアルロニダーゼ、これは宿主組織を破壊し、おそらくそれらを細菌の増殖に利用される小さな栄養素に変換するが、どちらもS.intermediusによって産生されることが知られているが、S.constellatusはヒアルロニダーゼのみを産生し、S.anginosusはどちらも産生しない。

Intermedilysin(ILY)は、ヒト肝細胞に直接的に損害を与えるヒト特異的細胞溶解素であり、深部膿瘍を引き起こす潜在的な毒性因子として関与している。 ily遺伝子はS.intermediusに特異的であることが示されている。

・S. intermediusの菌株はまた、intermedilysinとして知られているヒト特異的細胞溶解素を分泌し、その発現は最近、株の病原性またはS. intermedius感染の重症度と相関している。[J Clin Microbiol. 2000 Jan;38(1):220-6.]

 

・SAGの細菌は、肝臓および脳膿瘍、歯槽骨感染および感染性心内膜炎を含む様々な部位で侵襲性の化膿性感染症に頻繁に遭遇する。

・これらの微生物は、膿瘍形成による発熱性侵襲性感染の原因となることがあるが、他の連鎖球菌と比較して感染性心内膜炎(IE)の原因となることはまれである。

 

・S.intermediusに関連する脳膿瘍を発症した小児の研究では、17人の患者の58%がチアノーゼ性先天性心疾患を有し、42%の患者は副鼻腔炎、中耳炎、または齲歯を有していた。[Indian J Pediatr. 2006 May;73(5):401-4.]

・Coreedoiraらによる肝膿瘍の前向き研究では他の菌と比べSAGメンバーは最も一般的に分離されており、S. intermediusが最も頻度の高い種であった。大多数の患者は治療のために膿瘍の外科的または経皮的な排液を必要としたが、患者の20%は抗菌剤単独で治療された。[Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 1998 Aug;17(8):556-60.]

・SAGが発熱性肝膿瘍の重要な原因であるという確かな証拠があり、これが関連した感染であれば、メトロニダゾールを受けた肝膿瘍患者は反応しない可能性がある。

・LombardiらはSAGによる脾膿瘍症例を報告。十二指腸潰瘍から混入したSAGの播種によるガスレベルと腹膜炎を伴った。

 

・S. intermediusに関連する脳膿瘍に対する以前の標準抗生物質レジメンの主流は、クロラムフェニコールを含むペニシリンであった。セフォタキシムとメトロニダゾールの組み合わせは、優れた脳内浸透とS. intermediusに対する活性を示している。

英国抗菌化学療法学会(BSAC)のワーキンググループは、  脳膿瘍には、β-ラクタム系抗生物質とメトロニダゾールを推奨している。膿瘍が切除されたときは非経口的に3〜4週間、  または穿刺吸引された人にては4〜6週間。

・興味深いことに、この微生物はダプトマイシンに耐性であり、最近、この抗生物質を投与された患者には、敗血症性ショックに関連するSAGのブレークスルー菌血症が記載されている。[Antimicrob Agents Chemother. 2011 Jul;55(7):3639-40.]

 

 

 

参考文献

BMC Infect Dis. 2008 Nov 10;8:154.

Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2013 Apr;32(4):477-83.

Modern Media (0026-8054)51巻12号 Page313-327

 


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