感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

心内膜炎の髄膜合併症はそれほど注目されていない

2017-04-13 | 感染症

意識障害や発熱、髄液検査所見から初期診断は細菌性髄膜炎にて経験的治療が始まり、髄液培養は陰性で血液培養にてStreptococcus salivariusが検出され、血液培養陽性例としてICT介入となった例です。結局全顎的な歯周病が見つかり、また経食道心臓超音波検査では僧帽弁に疣贅がみつかり、抗菌薬の大量および長期投与となりました。肺炎球菌以外のStreptococcusと髄膜炎、そして髄膜炎と心内膜炎の関係について諸文献をまとめてみました。

 

まとめ

 

細菌性髄膜炎の珍しい感染巣は感染性心内膜炎である。 心内膜炎は細菌性髄膜炎に先行するか、またはそれを複雑化しうることがある。

・黄色ブドウ球菌感染の場合は心内膜炎が細菌性髄膜炎に先行し(疣贅由来の敗血症性塞栓症による)、肺炎球菌感染の場合は細菌性髄膜炎において心内膜炎が合併する。 黄色ブドウ球菌感染患者のほうが肺炎球菌感染患者と比較して細菌性髄膜炎を予知する個々のCSFの所見が少ない。

・心内膜炎は2%の患者で確認された細菌性髄膜炎では珍しい併存状態であるがそれは高率の有害なアウトカム(63%)と関連している。

・感染性心内膜炎側からみると神経学的合併症は頻繁にみられ、虚血性塞栓症、真菌性動脈瘤、脳膿瘍、または髄膜炎が含まれる。

・218件の細菌性心内膜炎を含む大規模なシリーズでは患者の39%に神経学的合併症が存在しうち33人が髄膜徴候を示した。

・別の一連の細菌性心内膜炎の282エピソードでは、髄膜炎の6エピソードがあった。[ Med Clin (Barc). 1994 May 7;102(17):652-6.]

・細菌性髄膜炎はすべての心内膜炎患者の約7%で報告されているが、 "心内膜炎の髄膜合併症はそれほど注目されていない" 。  ( Osler W: The goulstonian lectures on malignant endocarditis. BMJ 1885; 1: 467–577.(あのオスラーがこんなこと言ってたんですね)

・IEを伴うか伴わないかは治療期間にも重要で IEを伴う髄膜炎における抗菌薬治療期間の一般的な推奨はIE治療に準じて4〜6週間程度であり、IEの伴わない髄膜炎患者での標準的な期間は10〜14日。さらに患者が心臓手術を受ける場合は、より長い期間の抗菌薬投与が勧められる。

・小児および成人における肺炎球菌髄膜炎と、新生児におけるStreptococcus agalactiae(B群連鎖球菌)髄膜炎を除いて 他の連鎖球菌は、成人および子供の髄膜炎の原因病原体としては一般的ではない

・全体的に、β-溶血性連鎖球菌による髄膜炎はそれほど頻繁に見られず、S. pyogenesによって引き起こされるエピソードは、中耳炎または咽頭炎患者において散発的に発生している。

・Viridans streptococciは、健康な人の上気道における細菌の最も一般的なメンバーであり口腔や粘膜の健康状態にとって重要

・歴史的には、1970年代初めまでは、β溶血性連鎖球菌やviridans連鎖球菌は、市中獲得の細菌性髄膜炎のすべての症例の10%〜20%を占めていたがその後有病率は明らかに低下した。

・viridans streptococciによって引き起こされる髄膜炎を有するほとんどの患者は、細菌性心内膜炎、頭部外傷または神経外科処置、胃腸炎、副鼻腔炎または中耳炎などの基礎疾患の高い発生率を示す。

・streptococcal髄膜炎は、ほとんどの患者では、 i)ある程度の免疫抑制と関連した併存疾患を有する、ii)正常な血液脳関門(BBB)の完全性を傷害する処置や手術に曝されていた、iii)有意な頭蓋内又は頭蓋外感染巣を有していた。

心内膜炎のように、大きな細菌負荷量または血流を通じた細菌の連続的な供給は、BBBを最終的に通過する確率を増加させ大脳内感染を起こさせる。このような危険因子の存在はstreptococcal髄膜炎の前提条件であると思われstreptococciはそのままではBBBに浸透することができないことを示している。

 

・オランダ7年間のコホート研究。成人細菌性髄膜炎例(CSF培養陰性は除外)で心内膜炎は2%(24/1025例)。菌はStreptococcus pneumoniae 13例、Staphylococcus aureus8例、そしてStreptococcus agalactiae、Streptococcus pyogenes、 Streptococcus salivariusは1例ずつ。IE診断につながった手がかりは心雑音、持続性または再発性発熱、心臓弁疾患歴、および原因菌がS.aureus。 [Circulation. 2013 May 21;127(20):2056-62.]

・そもそも肺炎球菌髄膜炎患者の約半分が持続性または再発性の発熱を有するため、これらでは心内膜炎を除外または確立するために補助的検査が必要である。

細菌性髄膜炎を予知するCSF所見(以下のうち少なくとも1つの:血糖<34mg/dL、CSFグルコース・血糖比<0.23、蛋白質> 220mg/ dL、白血球数> 2000)は IE患者ではIEのない患者と比較して低かった (58% 対 88% P <0.001)

・呼吸不全者の割合、循環ショック、関節炎、脳梗塞、大脳内出血は、IE患者の方がIEのない患者よりも高かった。

 

・台湾での13.5年間の成人のstreptococcal髄膜炎例、38例の研究。うち12例が外科術後感染。S.pneumoniae 19例、 viridans group streptococci 13例、non-A, non-B, and non-D streptococci 3例、 Group D streptococci 1例、Group B streptococci (S. agalactiae) 2例。.[Clin Neurol Neurosurg. 2001 Oct;103(3):137-42.]

・台湾での15年間の成人のviridans streptococciよる髄膜炎、12例の研究。感染の侵入門戸は、5例が口腔咽頭感染(±血行性)、6例が血行性(うち1例のみがIEを伴っていた)。 この施設ではviridans streptococciはK. pneumoniaeとS. pneumoniaeについで3番目に頻繁に発生する細菌性髄膜炎菌であった [Infection. 2001 Dec;29(6):305-9.]

 

・デンマークでの20年間のS. pneumoniae以外のstreptococciによる急性細菌性髄膜炎26例のretrospective研究。 73%が併存疾患または素因があり、73%が頭蓋外の感染巣が認識された。5例は脳膿瘍であり、5例は心内膜炎であった。β溶血性連鎖球菌は心内膜炎を有する患者で優勢で、αまたは非溶血性連鎖球菌は脳膿瘍患者で優勢。[Scand J Infect Dis. 1999;31(4):375-81.]

・スペインでの20年間での成人のS. pneumoniae以外のstreptococciによる急性細菌性髄膜炎29例の報告。9例は脳神経外科手術後、7例は脳膿瘍、5例は脳脊髄液瘻、3例は心内膜炎。原因菌は、viridans group streptococci 20例、嫌気性streptococci 3例、Streptococcus agalactiae 3例、 Streptococcus bovis 2例、 Streptococcus pyogenesが1例。4例のStreptococcus mitis株ではペニシリンに対する感受性の減少を示していた(MIC、0.5-2μg/ mL)[Clin Infect Dis. 1999 May;28(5):1104-8]

 

細菌性髄膜炎症例での非典型な菌の分離は、非常に疑わしく感染性心内膜炎を示唆する可能性がある。

・もし、1)S.aureusやE.faecalisなど髄膜炎の分離株が典型的ではない、2)血液培養は陽性だがCSF培養は陰性である、3)(新たな)心雑音が明白である、ような細菌性髄膜炎患者では、感染性心内膜炎が常に考慮されるべき。(N Engl J Med 1939; 220: 587–592.)(これも古い文献からの引用)

 

 

参考文献

Circulation. 2013 May 21;127(20):2056-62.

Infection. 2004 Feb;32(1):47-50.

Clin Neurol Neurosurg. 2001 Oct;103(3):137-42.

Infection. 2001 Dec;29(6):305-9.

Scand J Infect Dis. 1999;31(4):375-81.

Clin Infect Dis. 1999 May;28(5):1104-8.


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