くろにゃんこの読書日記

マイナーな読書好きのブログ。
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ぼくのともだち エマニュエル・ボーヴ

2006年03月03日 | 海外文学 その他
久しぶりのお休みを、昼寝と読書で満喫いたしました。
読んだのはこの一冊、エマニュエル・ボーヴという1900年代にフランスで人気を博していたという作家が書いた「ぼくのともだち」。
1ヶ月ほど前になるでしょうか。
某国営放送で本を紹介する番組(番組名は知らないのです)を観ていたら豊崎氏がこの本をお勧めの一冊として熱く語っておられました。
ナニナニ、ニート?笑える?
笑える小説というものに敏感なワタクシ。
それは読みたい。
ということで、図書館で借りてまいりました。

ストーリィは単純明快。
戦争で負傷し、退役年金でささやかに都会の片隅に生きる男が、
本当の友達を探そうとするお話。
年金だけが、彼の生きるよすがですが、怪我の後遺症にかこつけて本気で仕事を探そうとはしておらず、そのふりをするだけ。
孤独がいやで、分かり合える友達が欲しいのだけれど、これが独りよがりで失敗ばかり。
誰にも関心を持たれないことを悲しむくせに、その悲しさに浸っているところを突然さえぎられると腹を立てたりする、そんな男が主人公。
良く言えば不器用。
はっきりいって挙動不審。
でも、女性が目を留めるぐらいの魅力は持ち合わせているみたい。
戦争による負傷によって彼は身体だけでなく心にも負傷を負っている、そう考えるのが妥当ですが、だからといって、戦争についての記述があるわけではなく、ただひたすら、彼の日常と思考と行動が描かれています。

現在の日本には、ニートという社会現象がありますね。
「ニートとフリーターってどう違うの?」
何気に息子に質問してみました。
私も判断しかねていたので。
「フリーターはバイトとかしている人で、ニートはバイトも何もしていない人」
と、遊びに来ていた息子のお友達が解決してくれました。
詳しくはウィキペディアで見てください。
ニートのなかにもいろいろとタイプがあるようですが、この本の主人公ヴィクトール・バトンのように、人との関わりが難しかったり、社会との関係が希薄だったりするのでしょう。
また、それを敢てしている。
共通点は多そうです。
ヴィクトール・バトンは、どこかで自分に問題があると気づいていて、友達を作りたい、社会に関わっていたいという欲求もある。
でも、なにかがそれが阻んでいて、正反対の思考や行動を辿ってしまう。
そのなにかは、心の負傷なのでしょう。
ニートもどこか心に傷を負っているのかもしれませんね。

「読んでいて面白いけれど、お友達にはなりたくない」
某国営放送の番組内での一致した意見でありました。
この主人公が、身近にいるかもしれないと思わせるほど、生きている小説なのだと思います。
この本が書かれたのは1924年。
訳の妙なのか、原本からしてそうなのかわかりませんが、とても現代的な文章で、誰かのブログ記事を読んでいるような、そんな気持ちになる小説です。
訳本を読み慣れない人にも読み易いのではないかな。
先にあげた、笑えるというのは、オチがあるようなものではなく、文章自体におかしみを見出す、そういう感じで、人によってはまるツボは違うと思います。
私がはまったツボは、ハラリと落ちるはずのシュミーズが腰にひっかかった場面。
膝をたたいて笑ってしまいました。
ユーモア小説といいましても、全体的に悲しみが漂っておりますので、
大いに笑えるというものではありません。
解説には「世にも哀しいユーモア小説」と表現されていましたが、
まさにそのものズバリな作品です。

ぼくのともだち


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (chiekoa)
2006-03-03 11:21:48
面白い!というのとは何か違うんですけど、こう…表現が難しいですよね。読んだもの同士ならきっとわかる…!でもなんともいえず、好きな本です。
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ユーモア小説 (くろにゃんこ)
2006-03-03 12:09:19
日本では、ユーモア小説というジャンルが正当な評価を得ていないように思えます。

この作品は、ユーモア小説の奥深さを知るのに適しているのではないかなぁ。

主人公に共感する人も少なからずいると私は思うのですけど。

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