くろにゃんこの読書日記

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ソポクレス「コローノスのオイディプース」「アンティゴネー」

2006年11月02日 | ギリシア悲劇とその周辺
本書は、ソポクレス作品、しかもオイディープスにまつわる3作を所収しています。
自分の呪わしい運命を知る「オイディープス王」、彷徨った後に死を迎える「コローノスのオイディプース」、その後の娘アンティゴネーの悲劇「アンティゴネー」。
悲劇の一族の物語を時系列に沿って並べてみるとこの順ですが、作品自体の成立年代は、「アンティゴネー」が一番先で、次に「オイディプース王」、
そして老年の作とされるのが「コローノスのオイディプース」。
この3作は、一つの一族を扱った戯曲ではありますが、
どの作品もそれぞれ違う性質をもっています。

戯曲としての面白さ、物語のダイナミックさが際立っているのは、
やはり「オイディプース王」でしょう。
オイディプースの性格に、あのような激しさを与えることによって、デルポイの予言だけが一人歩きしているわけではないことを示し、真実を苦痛と共に受け入れるオイディプースの姿は、私達の心を揺さぶります。

「コローノスのオイディプース」は、ソポクレス老年の作であり、
作品はそれを如実にあらわしています。
「オイディープス王」のラストでは、その恥辱ゆえに舘に閉じ込めえられるオイディプースですが、その後、国を追放され、娘アンティゴネーを伴って放浪の旅を続け、コローノスのエウメニデスの神域にたどり着く、というところから物語りは始まります。
「コローノスのオイディプース」では、オイディプースに対する来訪者が次々と登場していくというかたちで物語は進行し、物語自体も国と国の関係、兄弟(オイディプースの息子達、エテオクレースとポリュネイケース)の関係、2つの予言のつながりなど多少複雑で、下手な作家なら絶対に取らないような手法であるといえましょう。
その難しい状況を流れるようなスムーズさで持ってくるところは、円熟した力量を感じさせ、
来訪者が来るたびに次の展開を期待させます。
登場人物たちは、それぞれがとても個性豊かです。
もはや、戯曲の枠を超えていて、ソポクレス、凄すぎます。
やがて迎えるオイディプースの最後は、ただただ圧巻であり、穢れの存在であったオイディプースが土地を祝福する存在へと変化していく姿は神々しくもあります。
そこからは、ソポクレスの国を愛する心や、
老年における達観した慈しみが読み取れるような気がします。

「コローノスのオイディプース」を読みますと、
残された4人の子供達がその後どうなったのか気になります。
安心してください。
それは「アンティゴネー」で知ることができます。
アンティゴネーとイスメーネー姉妹は、
オイディプースの目となり杖となってオイディプースを支えてきました。
しかし、兄と弟はテーパイの王権を争う仲であり、衝突の末、
互いに刺し違えて倒れてしまいます。
オイディプース亡き後、テーパイに戻っている姉妹ですが、王となったクレオーン(イオカステーの弟)による、祖国の敵となった兄ポリュネイケースの遺骸は弔うことならず、というお触れに、アンティゴネーは逆らって、遺骸の上に土を盛り、しきたりどおりに弔おうとします。
クレオーンの定めた人の掟に従うか、神の掟に従うか。
アンティゴネーは、愛する兄弟のために神の掟に従う方を選びます。
しかし、クレオーンはそれを許さず、アンティゴネーを捕らえ、
洞窟に生きながら閉じ込めるという刑罰を下します。
アンティゴネーの毅然とした態度には感服しますし、
コロス(合唱隊)からは、アンティゴネーへの同情が伺えます。
前記事でも書きましたが、王の心の乱れは国への災難となって現れます。
そのお約束がいちばんあらわれているのが「アンティゴネー」で、
王たるクレオーンの頑なさが悲劇を生みます。
クレオーンは3作全てに登場しており、作品によりすこしずつ性格が変化しています。
「オイディプース王」に登場するクレオーンは、よくできた人物として描かれていますが「コローノスのオイディプース」では、口汚くオイディプースを罵り、予言のため、国のために、無理やりオイディプースを連れ帰ろうとします。
「アンティゴネー」では、市民の感情やコロスの長や
息子ハイモーンの諌めの言葉などお構いなしに我を通そうとします。
クレオーンの変化は、権力を手にしたときの傲慢さや疑心暗鬼を浮き彫りにしており、
非常に興味深い人物であります。
また、テイレシアースとの激しいやり取りの後にやってくる怒涛のラストは、
涙してしまうほどの悲劇です。
これを円形劇場で観ていた市民たちは、きっと目頭を押さえたに違いありません。
2000年以上も前の作品を読むことができ、
同じように感極まることができる私達は本当に幸せ者だと思いませんか?

ソポクレース I ギリシア悲劇全集(3)





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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
オイディプス王 (きし)
2006-11-02 23:44:37
録画でしたが、舞台を観ました。野村萬斎さんがオイディプス。
自分でも驚くほど泣きながら観たことを思い出します。
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羨ましい! (くろにゃんこ)
2006-11-03 10:24:43
いいなぁ~。
野村萬斎のオイディプス、観たい~~!
最近の野村萬斎は、NHKの「日本語であそぼう」にご出演なさってますよね。
たまにみてますが、あの番組けっこう面白い。

蜷川幸雄演出といえば、「オレステス」もありますね。
藤原竜也がオレステス役のようですね。
「オレステス」はエウリピデスですが、昨日図書館からまたギリシア悲劇全集ソポクレス「エレクトラ」を借りてきちゃいました。
読むのが楽しみです。
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