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ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

帝王切開後の経腟分娩(VBAC)における子宮破裂

2008年05月22日 | 周産期医学

コメント(私見):

帝王切開後の経腟分娩(VBAC,  Vaginal Birth After Ceasarean)では、一定頻度の子宮破裂は絶対に避けられません。子宮破裂の際の母体死亡率は1%、周産期児死亡率:6%、児死亡+神経学的後障害:23~42%と報告されてます。

前回帝王切開時の子宮切開方法と、VBAC(帝王切開後の経膣分娩)における子宮破裂の発生率の関係は、以下の通りです(アメリカ産婦人科学会、1999)。

古典的帝王切開(子宮縦切開) 4~9%の子宮破裂
T字切開               4~9%の子宮破裂
子宮下部縦切開            1~7%の子宮破裂
子宮下部横切開            0.2~1.5%の子宮破裂

古典的帝王切開(子宮縦切開)の時代には、『一度帝王切開受けたのなら、ずっと帝王切開(Once a cesarean, always cesarean)』が常識でした。

1980年に米国NIH(国立衛生研究所)はVBACを推進する勧告を発表し、1990年に米国厚生省は2000年までに帝王切開率を15%、VBAC率を35%にする目標を掲げました。これらの国策によって、米国では1990年代の半ばには帝王切開の既往のある妊婦の約6割に試験分娩が行われるまでになり、1996年のVBAC率は29.8%にまで達しました。

しかし、その後の大規模研究で、選択的帝王切開群に比べ、試験分娩群での子宮破裂の頻度上昇とそれに伴う児の予後の悪化、母体合併症の増加、医療費増大などの報告が相次ぎ、 エビデンスに基づきVBACの安全性をもう一度考え直す機運が高まりました。帝王切開率も1996年の20.7%から上昇に転じ、VBAC率も1996年以降低下しつつあります。

1999年にアメリカ産婦人科学会はVBACに関するエビデンスに基づいた勧告を発表し、米国においては、現在、従来より慎重な対応が求められるようになり、十分なインフォームドコンセント(説明と同意)が強調される傾向にあります。

我が国における帝切率、VBAC率の全国統計はありませんが、我が国のVBACのトレンドはほぼ米国の動向に追随する傾向にありますので、1995年当時の我が国のVBAC率は現在よりもはるかに高率だったと思われます。事実、当科においても1995年当時は、既往帝切回数が1回、単胎・頭位、児頭骨盤不均衡がない場合であれば、ほとんど全例で試験分娩をお勧めしてました。しかし最近では、既往帝切妊婦には、ほぼ例外なく選択的帝王切開をお勧めしていますので、VBAC率は毎年ほぼ0%の状況です。


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4 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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当院でもリスクを説明した上で、帝王切開後の10%... (50才代産婦人科勤務医)
2008-05-23 00:00:45
VBACに当然の様にリスクを伴うことは、医師も看護師である妊婦も分かった上で選択したのでしょう。病院の緊急手術への体制を知った上で、もし妊婦自身がVBACへの危険性を感じたのでしたら、最初から帝王切開を選ぶべきだったと思います。分娩には避けられない賭の要素がありますので。

まさか担当医が聞く耳を持たなかったのでしょうか?。
リスクへの知識が不十分だったのでしょうか?。
緊急帝王切開体制が全く不完全だったのでしょうか?。

もう少し詳細を知りたいところです。
返信する
判例から何を学び、次にどう対応したらよいか (KO)
2008-05-23 07:58:08
きっちり学習できないと単なる萎縮医療に
なってしまうと私も思います。
返信する
当院では分娩室で緊急手術できる体制を作りました... (50才代産婦人科勤務医)
2008-05-26 10:07:05
ご紹介のトラックバック「産科医療のこれから」は大変参考になりますね。http://obgy.typepad.jp/blog/2008/05/post-1341-65.html

しかし分娩に「完璧」「完全」を求めた場合の悲惨と滑稽を、どうやったら世間に理解してもらえるのでしょう?。医療側のみで悩んでいても何も解決できません。脱力感にとらわれます。
返信する
 VBACについての記述があります。ご参考までに。 (rijin)
2008-05-27 11:20:34
http://www.mers.jp/old/newsletter/no02/katsumura_kouenn.htm
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