ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

福島県立大野病院事件 「無罪」と最終弁論で弁護側が改めて主張

2008年05月21日 | 大野病院事件

コメント(私見):

2006年2月19日付の朝刊の記事を読んで、「一体全体、この医師はなぜ逮捕されなければならなかったのだろうか?」と私はふと疑問に思いました。この新聞記事を読む限り、産科業務に携わっている以上はいつでも誰でも経験しそうな事例のようにも思われました。「何が医療ミスだったのか?」ということさえも、この記事からはさっぱり理解できませんでした。「この事例で担当の医師が逮捕されるというんだったら、自分だっていつ逮捕されるか全くわからない!」と大きな危機感をいだきました。その日以来、この事件に関する報道記事にはずっと関心を持ち続けてきました。

今回の公判後の記者会見で、主任弁護人の平岩敬一氏は次のように述べました。

「今回の逮捕・起訴は、産科医療だけではなく、外科、救急医療までにも大きな影響を与えた。はっきりと裁判所が無罪と言うことで、医療現場の混乱が収束し、不安を抱えたままで仕事をしなければならない事態が改善することを期待する。」

「今回の事件は、まず起訴が誤っていたと思う。専門家の意見をきちんと聞かなかったからだ。聞いていれば、起訴はなかったのだろう。こうした意味からすれば、医療の素人の警察に届け出する現在の制度はやはり誤りだと思っている。今検討されているように、医療の専門家で構成する調査委員会に届け出を改めること自体は正しい方向性だ。21条が改正されて、制度が大きく変わること自体は支持したい。ただ今、様々な学会がシビアな意見を出している。それは制度を変えるのだったら、最善のものにしたいという意向からだろう。」

癒着胎盤で母体死亡となった事例

大野病院事件 弁護側の最終弁論 

****** m3.com医療維新、2008年5月19日

福島県立大野病院事件◆Vol.11

「無罪」と最終弁論で弁護側が改めて主張

業務上過失致死罪と医師法違反ともに無罪主張、判決は8月20日

橋本佳子(m3.com編集長)

 5月16日、福島地裁で福島県立大野病院事件の最終弁論が行われた。その冒頭、弁護側は「業務上過失致死罪および医師法違反の罪のいずれについても無罪である」と、改めて主張した。

 弁護側は、今回の事件は、薬の種類や量を間違えたり、誤って臓器を切るなどの明白な医療過誤事件とは異なるとし、「帝王切開手術で患者が死亡」という結果の重大性のみに依拠して責任を追及することを疑問視した。その上で、癒着胎盤についての産科医としての通常の医療行為と医師の裁量そのものが問題視されている事案であり、検察が医学的見地から過失の存否を立証する責任を負うが、明確な主張をせず、十分な立証もできなかったとした。

 本裁判はこの日で結審し、2008年8月20日午前10時から、判決が言い渡されることになった。

 公判の最後に、加藤克彦医師は、「(死亡した女性に対して)ご冥福をお祈りします」と述べ、次のように語った。

 「私は真摯(しんし)な気持ち、態度で、産婦人科医療の現場におりました。再び医師として働かせていただけるのであれば、また地域医療の一端を担いたいと考えております」

 最終弁論は5時間半強、7人の弁護士が交代で

 最終弁論は午前10時から開始、途中、合計で約1時間20分の休憩はさんで、午後4時40分まで続いた。A4判で157ページにも及ぶ「弁論要旨」を7人の弁護士が交代で読み上げた。

 弁論要旨は、以下の11項目から成る。
 第1  結論
 第2  はじめに
 第3  本事件の事実経過について
 第4  癒着の部位・程度およびその点についての被告人の認識
 第5  出血部位、程度について
 第6  因果関係
 第7  予見可能性について
 第8  剥離中止義務の医療措置の妥当性、相当性(結果回避義務について)
 第9  被告人の供述調書の任意性
 第10 医師法21条違反がないこと
 第11 総括 

 業務上過失致死罪に関する検察側の主張を要約すると、「癒着胎盤があると分かった時点で、胎盤の剥離を中止し、子宮摘出手術に切り替えるべきだった。しかし、剥離を中断せず、クーパーで無理に剥離を継続したことで大量出血を招き、それにより死亡した」というもの。

 これに対する最終弁論が第4~第8。検察側の主張と対比すると、以下のようになる。
 第4:胎盤の癒着は子宮前壁にはなく後壁のみ、その深度は一番深いところで5分の1程度。 
 (検察の主張:子宮前壁にも癒着があり、深度は2分の1程度)
 第5:胎盤剥離直後の時点での出血量は、2555mL。胎盤剥離中の出血は最大555mLにすぎず、大量出血はなかった。
 (検察の主張:胎盤剥離直後の時点での出血量は、約5000mL)
 第6:死亡原因として、羊水塞栓の可能性があり、大量出血の要因として産科DIC発症が考えられる以上、大量出血と死亡との因果関係には疑問の余地がある。  
 (検察の主張:胎盤剥離行為による大量出血と、死亡には因果関係がある)
 第7:術前と開腹直後の癒着胎盤の予見可能性、術中の大量出血の予見可能性はいずれもない。
 (検察の主張:術前、遅くても開腹直後には癒着胎盤を予見することが可能。大量出血も予見可能)
 第8:胎盤剥離を継続したことは、剥離後の子宮収縮と止血を期待したものであり、この判断は臨床医学の実践における医療水準にかなうものであり、妥当かつ相当。
 (検察の主張:胎盤の剥離が困難になった時点で、剥離を中断し、子宮摘出術に切り替えるべきだったが、クーパーを利用して漫然と剥離を継続した過失がある)

 これらは、過去13回の公判で、弁護側が繰り返してきた主張でもある。この日の弁論の特徴として、「医療水準」という言葉を多用したことが挙げられる。加藤医師の行為が医療水準に合致していたかを医学的見地から立証することが重要であり、その責任は検察が負うことを繰り返し強調した。

(以下略)


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1 コメント

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>ただ今、様々な学会がシビアな意見を出してい... (暇人28号)
2008-05-22 13:19:40
違います。この試案がそのまま通ったら、医療従事者にとって、今まで以上に厳しいものだからです。それなら今までのほうがまだマシ、と認識しているからです。
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