hydrops fetalis
[定義]
原因のいかんを問わず、胎児全身の軟部組織に浮腫あるいは腔水症(心嚢水、胸水、腹水)を認める症候群をいう。
[要因による分類]
1.免疫性胎児水腫(immune hydrops fetalis; IHF)
全体の約15%
2.非免疫性胎児水腫(nonimmune hydrops fetalis; NIHF)
全体の約85%
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免疫性胎児水腫
母児間に血液型不適合があり、胎児に高度の貧血、胎児赤芽球症、全身の浮腫が起こり、死亡することもある病態。主にRh(D)因子不適合妊娠で発生する。
胎児の溶血性貧血が起こる機序:
①胎児赤血球が母体循環系へ移行する。
②母体血中に抗赤血球抗体ができる。
③抗赤血球抗体(IgG)が経胎盤的に胎児へ移行する。
④抗体と胎児赤血球が結合する抗体と結合した胎児赤血球が細網内皮系で破壊されて溶血を起こす。
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非免疫性胎児水腫
母児間血液型不適合以外の原因による胎児水腫。免疫性胎児水腫よりも予後が悪く、頻度も多い。
①心血管異常:不整脈、先天性心疾患、心筋症、心筋炎など
②染色体異常:21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーなど
③双胎間輸血症候群の受血児
④呼吸器系異常:横隔膜ヘルニア、乳び胸水など
⑤血液学的異常:動静脈シャント、出血、血栓、サラセミアなど
⑥感染症:パルボウイルスB19、TORCH症候群など
⑦腫瘍:神経芽腫、仙尾骨奇形腫、縦隔奇形腫、白血病など
⑧肝臓系異常:肝線維症、肝嚢胞、先天性代謝疾患など
⑨四肢骨格異常:軟骨無形成症、致死性骨異形成症など
⑩奇形症候群:Noonan症候群、リンパ嚢腫など
⑪胎児付属物異常:胎盤血管腫、母児間輸血症候群など
⑫母体合併症:重症糖尿病、重症貧血、低アルブミン血症など
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[診断]
超音波検査(皮膚肥厚、心嚢液貯留、胸・腹水、胎児奇形)、 母体の血液型、不規則抗体、一般血液検査、HbF、耐糖能、TORCH検査、パルボウイルスB19抗体価、羊水分析、胎児血分析、胸水・腹水の細胞成分分析など。
[治療]
①胎児の胸腔穿刺・腹水穿刺
②胎児輸血、
③胸腔癒着術
④ジギタリスや抗不整脈薬の経母体的投与または胎児直接投与
⑤児の成熟度を考慮して分娩時期を適切に考慮する
[予後]
・ 重症心疾患や致死的奇形の合併例、妊娠22週未満で発生した症例、原因不明例などは予後不良である。
・ 胎児頻拍にともなう症例、胸水あるいは腹水のいずれかの単独例、乳び胸水・腹水例、妊娠7カ月以降に発症した症例などは予後が比較的良好である。