新型インフルエンザワクチンに対する要望 (日本産科婦人科学会)
厚生労働省 新型インフルエンザ対策推進本部 御中
日本産科婦人科学会では「妊婦(110万人)ならびに産後6ヵ月以内の婦人(55万人)への新型インフルエンザワクチンの優先的な接種」を要望いたします。根拠は以下の通りです。
1. 妊婦は新型インフルエンザに罹患すると重症化しやすく、また死亡率も高い可能性がある。
理由: Lancet誌(Published Online 2009年7月29日)によれば
「米国疾病予防局(CDC、Center for Disease Control)は、2009年4月15日~同年5月18日間に13州で34名の新型インフルエンザ(H1N1)感染妊婦を確認した。うち11名(32%)が入院し、1名(2.9%)が死亡した。また、この1ヶ月間の総感染者数5,469名中、妊婦は34名(0.6%)を占めたが、妊婦での入院率(32.4%、11/34)は妊婦以外での入院率(4.0%、218/5,435)に比してはるかに高いものであった。」
また、同時に同誌は以下のことも報告している。
「2009年4月15日~同年6月16日間に新型インフルエンザによる45名の死亡を確認した。うち6名(13%)が妊婦であった。これら6名はいずれもタミフル投与を受けたが、その投与開始時期は発症後6日、8日、8日、10日、14日、15日目であった。これらの妊婦はいずれも肺炎とARDSを合併し人工呼吸管理を必要とした妊婦であった。」
ちなみに、妊婦は全米人口の約1.3%である。
2. WHOは上記Lancet誌の報告を受けて、2009年7月31日に「Pandemic influenza in pregnant women: Pandemic (H1N1)2009 briefing note 5」として、以下を推奨した。
1) 新型インフルエンザ流行地域の妊婦ならびに妊婦の治療に関与する者は妊婦のインフルエンザ様症状に注意を払うべきである。
2) 症状発現後はできるかぎり早期にタミフルによる治療を開始すべきである。
妊娠している婦人もしくは授乳中の婦人に対しての新型インフルエンザ(H1N1)感染に対する対応Q&A (一般の方対象) 、日本産科婦人科学会
****** 共同通信、2009年8月29日
新型インフルから妊婦守れ
海外で死者、不安高まる
新型インフルエンザの流行がさらに拡大する中、感染すると重症化しやすい妊婦をどのように守るか。ブラジルでは新型の死者の1割強を妊婦が占め、感染防止対策が最も必要なグループであることが浮き彫りになった。最も大切なのは手洗いなどで日常的に感染を防ぐこと。日本産科婦人科学会(日産婦)は、感染が疑われたらほかの妊婦への感染を防ぐために、産婦人科ではなく一般病院を受診するよう呼び掛けている。
日産婦は治療薬の投与も推奨し、妊婦110万人と産後6カ月以内の女性55万人に、新型用ワクチンを優先接種するよう国に要請。国は9月中に優先接種を正式決定する見通しだ。
「自分もリスクが高くて心配なのはもちろんだが、産んだ子どもはどうなるのだろうか。生まれたばかりの子どもは薬も飲めないし、分からないことが多く不安だ」。東京都文京区に住む妊娠9カ月の女性(42)は打ち明ける。
27日の新型用ワクチン接種の優先順位の意見交換会で、日産婦の水上尚典北海道大教授は「妊婦は人口の約1%だが、海外では多くの死者が出ている。危機感を持っている」と訴えた。
(共同通信、2009年8月29日)
****** 毎日新聞、2009年8月28日
新型インフルエンザ:ブラジルの死者、
世界最多557人に
【メキシコ市・庭田学】AP通信などによると、ブラジル保健省は26日、同国の新型インフルエンザによる死者が22日現在で557人になったと発表した。確認されている統計では、米国の522人(20日現在)を上回り世界最悪になった。死者の1割以上にあたる58人が妊婦だった。ブラジル保健省は、人口比でみると同国の死亡率は世界で7番目だとしている。
(毎日新聞、2009年8月28日)
****** 東京新聞、2009年8月30日
新型インフル家族が感染したら タオルは別々に 朝と晩熱測って
流行がさらに拡大した新型インフルエンザ。家族が感染したら、ほかの家族はどう対応すればいいのか。厚生労働省や米疾病対策センター(CDC)は、さまざまな注意点を挙げている。
▽体調異変時
熱やせきが出始めても、体力などにより個人個人で症状は異なり、自宅の常備薬で対応できることもある。ただ、妊娠中や持病のある人は、早めにかかりつけ医に相談する必要がある。
受診する場合、都道府県の発熱相談センターに電話で相談できる。医療機関には行く前に電話を。「患者が多い時期は重症者を優先的に診る大病院より、地域の診療所のほうが待たずに済むことが多い」(厚労省)という。
▽自宅療養
感染者本人はマスクをつけ、できればドアを閉められる個室で療養する。妊婦や持病のある人は感染者の看護を避ける。感染した子どもを抱く時は自分の肩に子どものあごを乗せるなど、面と向かわない工夫をしたい。
口に手を当ててせきをした際など、小まめにせっけんや消毒液で手洗いを。タオルも家族で色分けをして別のものを使う。
▽外出は?
厚労省によると、感染者の家族は会社や学校などへ行くのは問題ない。ただ朝晩に熱を測るなど体調のチェックを怠らないよう呼び掛けている。CDCは感染者本人について、解熱剤を使わずに熱が下がったとしても、丸一日は外出を避けるべきだとしている。さらに厚労省は「できれば発熱、せきなどの症状が始まった日の翌日から七日目まで避けてほしい」としている。
(東京新聞、2009年8月30日)
****** 読売新聞、2009年9月1日
ワクチン接種、医療従事者を最優先
…厚労省案
新型インフルエンザのワクチンを接種する際、優先順位を医療従事者、持病がある人、妊婦、小児、乳児の両親とする厚生労働省の基本方針案が31日、明らかになった。
これら約1900万人への接種が終わった後で、小中高校生、高齢者に接種する。政府の専門家諮問委員会などの意見を踏まえ、国民の意見を募集したうえで、9月中旬にも正式決定する。
死亡者や重症者の発生を減らすことを目的に、健康に重大な影響を受けるおそれがある人を優先した。
具体的には、〈1〉医療従事者100万人〈2〉持病(ぜんそく、糖尿病など)がある人1000万人と妊婦100万人〈3〉生後6か月~就学前の小児600万人〈4〉生後6か月未満の乳児の両親100万人――を最優先接種者とし、この順で接種を実施。持病のある人の中では、小児を優先することにした。その後で小学生、中学生、高校生、高齢者の順に接種する。
年度内に国内で製造できるワクチンは、想定よりも大幅に少ない1800万人分と見積もっており、最優先接種者に使用する見通し。不足分は輸入する方針だが、治験などを実施して安全性を確認し、問題がある場合には使用しない。
(読売新聞、2009年9月1日)
****** 共同通信、2009年8月31日
厚労相、新型ワクチン輸入に意欲 精力的に交渉
新型インフルエンザ用ワクチンの輸入について舛添要一厚生労働相は31日、「海外メーカーと精力的に交渉している。約束した通りの人数分か、できれば、それを超えるぐらいの量を確保したいと思っている」と述べ、あらためて輸入に強い意欲を示した。
厚労相はこれまで、国内では最大で5300万人分のワクチンが必要だとし、国内メーカー4社の製造で足りない分を輸入で賄う考えを示している。
一方、輸入ワクチンについては国内製品と製法が異なるため安全性に対する懸念の声がある上、国際的にワクチン不足が予想される中で、医療態勢が整い、インフルエンザ治療薬も豊富にある日本が輸入することに批判も出ている。このため専門家の間には輸入に慎重な意見があり、具体的な輸入相手や量は決まっていない。
(共同通信、2009年8月31日)
****** 時事通信、2009年8月29日
日本でもワクチン治験
新型インフルでスイス製薬大手
スイス製薬大手のノバルティスは31日、新型インフルエンザのワクチンの効果や副作用を検証する臨床試験(治験)を、日本でも実施する方針を明らかにした。日本法人のノバルティスファーマ(東京)が成人200人、未成年者120人を対象に、9月中にも開始。日本政府が海外からの輸入を決めれば、年内にも供給できる見通し。
国内のワクチンメーカーは4社に限られ、ワクチンが不足する恐れがある。このため、政府は海外からの輸入を検討している。
(時事通信、2009年8月29日)
****** 信濃毎日新聞、2009年8月30日
新型ワクチン 輸入は慎重であるべきだ
新型インフルエンザのワクチン接種が緊急課題となっている。
国内で年内につくれる量は、1700万人分がやっとという。厚生労働省が目標とする5300万人分には、はるかに届かない。接種の対象者を絞り込まなくてはならない。
厚生労働省は、重症になりやすい基礎疾患のある人や妊婦、幼児らと、治療にあたる医療従事者に国産のワクチンを優先し、不足分は海外から輸入する考えだ。
ワクチン接種の目的は重症化を防ぐことにある。リスクが高い人を優先するのは当然である。県内でも重い心臓病の男性が亡くなった。妊婦の死亡率が高いとの海外の報告もある。厚労省はさらに優先度を検討し、広く意見を聞いて社会の合意を得てほしい。
一方、ワクチンの輸入には問題が多い。慎重に議論を尽くす必要がある。
ワクチン接種には副作用のリスクがある。まして海外メーカーのワクチンは国産とタイプが異なり、添加物も含まれている。にもかかわらず、舛添要一厚労相は当初、安全性を確かめる国内の臨床試験を省く考えを示した。
あまりに乱暴である。新型のワクチンは、接種を受けるかどうかを個人の判断に委ねる「任意接種」となる見通しだ。肝心の安全性があやふやでは、受ける側が判断に困ってしまう。
ワクチンの接種は、安全性と有効性、副作用リスクなどの説明が広く行き渡っていることが前提になる。十分な臨床試験と情報の提供が欠かせない。
輸入の是非は、国際的な視野からも論議されるべきだ。
新型のワクチンは世界的に不足している。医療先進国でワクチンの生産設備もある日本が海外からワクチンを買い集める行為は、理解を得られるだろうか。そのツケは結局、医療資源の乏しい途上国に及ぶことになる。
新型にかかっても、ほとんどの人は軽症で済んでいる。日本には治療薬もあり、公衆衛生の水準も高い。いま緊急に輸入が必要なのか、冷静に検討したい。
そもそもワクチンに感染を防ぐ力はない。ワクチンに目を奪われて、他の対策がおろそかになるのが心配だ。
厚労省は年内に患者数が2500万人に達すると予測する。
あらためて確認したい。大事なのは感染拡大を防ぐ一人ひとりの努力だ。社会全体で新型対策に取り組み、医療態勢を整えることが重症者の命を救うカギになる。
(信濃毎日新聞、2009年8月30日)