ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

妊婦もしくは褥婦に対しての新型インフルエンザ(H1N1)感染に対する対応Q&A (医療関係者対象)

2009年09月03日 | 新型インフルエンザ

新型インフルエンザ流行期のピーク時(9月下旬~10月上旬)には、当然、妊婦や授乳婦で感染する人も多く出ます。インフルエンザの簡易検査の陽性率は50%と言われています。特に発熱1日目の検査ではほとんどの人が陰性です。重症化を防ぐためには、発症直後にタミフル投与を開始することが有効ですから、

新型インフルエンザ流行期に妊婦や授乳婦が発熱(38℃以上)した場合は、検査結果を待たずできるかぎり早期にタミフルを投与し始めること

が重要です。その際、

かかりつけ産婦人科医を直接受診するのではなく、地域の一般病院へできるかぎり早期に受診すること

を地域内で周知徹底しておく必要があります。

もしも、新型インフルエンザに感染した妊婦や授乳婦が産婦人科を受診すると、医療機関を介して、多くの妊婦に新型インフルエンザ・ウイルスが広がってしまうことが危惧されます。また、産婦人科医や助産師で多くの感染者が出現した場合は、その施設では一時的に分娩の受け入れが困難となってしまいます。

地域の一般病院の先生方にも、以下の日本産科婦人科学会からのお知らせを十分に御理解いただく必要があります。

また、流行の状況に応じて、対応方法が変わっていく可能性もあります。政府、自治体、学会、病院からの広報だけでは、正しい情報が十分に浸透しません。新聞やテレビなどでも、繰り返し繰り返し、最新の正しい情報を流していただきたいと思います。

****** 日本産科婦人科学会、お知らせ
http://www.jsog.or.jp/news/html/announce_20090825b.html

妊婦もしくは褥婦に対しての
新型インフルエンザ(H1N1)感染に対する対応
Q&A (医療関係者対象)

         平成21年8月25日(4版)
         社団法人 日本産科婦人科学会

Q1: 妊婦は非妊婦に比して、新型インフルエンザに罹患した場合、重症化しやすいのでしょうか?
A1: 妊婦は重症化しやすいことが明らかとなりました。

Q2: インフルエンザ様症状が出現した場合の対応についてあらかじめ妊婦と相談しておいたほうがいいのでしょうか?
A2: もし、インフルエンザ様症状が出現した場合には、かかりつけ産婦人科医を直接受診するのではなく、地域の一般病院へできるかぎり早期に受診するよう、あらかじめ指導しておきます。これは妊婦から妊婦への感染防止という観点から重要な指導となります。

Q3: 妊婦がインフルエンザ様症状(38℃以上の発熱と急性呼吸器症状)を訴えた場合、どのように対応すればよいでしょうか?
A3: 産婦人科への直接受診は避けさせ、地域の一般病院へあらかじめ電話をして、できるかぎりの早期受診を勧めます。WHOは新型インフルエンザ感染が疑われる場合には医師は確認検査結果を待たずに、ただちにタミフルを投与すべきとしています。妊婦には、「発症後48時間以内のタミフル服用開始(確認検査結果を待たず)は重症化防止に最も有効」と伝えます。

Q4: 妊婦に新型インフルエンザ感染が確認された場合の対応(治療)はどうしたらいいでしょうか?
A4: ただちにタミフル(75mg錠を1日2回、5日間)による治療を開始します。

Q5: 妊婦が新型インフルエンザ患者と濃厚接触した場合の対応はどうしたらいいでしょうか?
A5: 抗インフルエンザ薬(タミフル、あるいはリレンザ)の予防的投与を開始します。

Q6: 抗インフルエンザ薬(タミフル、リレンザ)は胎児に大きな異常を引き起こすことはないのでしょうか?
A6: 2007年の米国疾病予防局ガイドラインには「抗インフルエンザ薬を投与された妊婦および出生した児に有害事象の報告はない」との記載があります。また、これら薬剤服用による利益は、可能性のある薬剤副作用より大きいと考えられています。催奇形性(薬が奇形の原因になること)に関して、タミフルは安全であることが最近報告されました。

Q7: 抗インフルエンザ薬(タミフル、リレンザ)の予防投与(インフルエンザ発症前)と治療投与(インフルエンザ発症後)で投与量や投与期間に違いがあるのでしょうか?
A7: 米国疾病予防局の推奨では以下のようになっていますので、本邦妊婦の場合にも同様な投与方法が推奨されます。
1.タミフルの場合
予防投与:75mg錠 1日1錠(計75mg)
治療のための投与:75mg錠1日2回(計150mg)5日間
なお、本邦の2008年Drugs in Japanによれば、治療には上記量を5日間投与、予防には上記量を7日~10日間投与となっています。
2.リレンザの場合
予防投与:10mgを1日1回吸入(計10mg)
治療のための投与:10mgを1日2回吸入(計20mg)
なお、本邦の2008年Drugs in Japanによれば、治療には上記量を5日間吸入、予防には上記量を10日間吸入となっています。

Q8: 予防投与の場合、予防効果はどの程度持続するのでしょうか?
A8: タミフル、リレンザともに2008年Drugs in Japanによれば、これらを連続して服用している期間のみ予防効果ありとされています。

Q9: 予防投与した場合、健康保険は適応されるのでしょうか?
A9: 予防投与は原則として自己負担となりますが、自治体の判断で自己負担分が公費負担となる場合があります。

Q10: 分娩前後に発症した場合は?
A10: タミフル(75mg錠を1日2回、5日間)による治療をただちに開始します。また、新生児も感染している可能性があるので、厳重に経過観察し、感染が疑われる場合には検査(A型か否か)を行い、できるだけ早期に治療を開始します。

Q11: 感染している母親が授乳することは可能でしょうか?
A11: 母乳を介した新型インフルエンザ感染の可能性は現在のところ知られていません。したがって、母乳は安全と考えられます。しかし、母親が直接授乳や児のケアを行なうためには以下の3条件がそろっていることが必要です。
1)タミフルあるいはリレンザを2日間以上服用していること
2)熱が下がって平熱となっていること
3)咳や、鼻水が殆どないこと
これら3条件を満たした場合、直接授乳することや児と接触することを母親に勧めます。ただし、児と接触する前の手洗い、清潔な服への着替え(あるいはガウン着用)、マスク着用の励行を指導します。また、接触中は咳をしないよう努力することを指導します。上記3条件を満たしていない間は、母児は可能な限り別室とし、搾乳した母乳を健康な第三者が児に与えるよう指導します。このような児への感染予防行為は発症後7日間にわたって続けることが必要です。発症後7日以上経過し、熱がなく症状がない場合、他人に感染させる危険は低いと考えられているので、通常の母児接触が可能となります。

         本件Q&A改定経緯:
         初版 平成21年5月19日
         2版 平成21年6月19日
         3版 平成21年8月4日
         4版 平成21年8月25日