紫のオルフェ~何でもかんでも気になる音楽、名曲アルバム独り言

ジャズ、ラテン、クラシックを中心として、名曲、アルバム演奏者を紹介します。&私の独り言を…

トランペットの貴公子、晩年のアルバム…チェット・ベイカー~ブロークン・ウィング

2007-09-14 23:58:22 | ジャズ・トランペット
若かりし頃は、リリカルで繊細なプレイ&シングと、「ジェームス・ディーン」ばりの「イケメン」ルックスで、絶大な人気を誇った、白人トランペッター&シンガーの、「チェット・ベイカー」の晩年(中年期)のアルバムです。

アルバムタイトル…ブロークン・ウィング

パーソネル…リーダー;チェット・ベイカー(tp、vo)
      フィル・マーコヴィツ(p)
      ジャン・フランソワ・ジェニー・クラーク(b)
      ジェフ・ブリリンガー(ds)

曲目…1.ブロークン・ウィング、2.ブラック・アイズ、3.オー・ユー・クレイジー・ムーン、4.ハウ・ディープ・イズ・ジ・オーシャン、5.ブルー・ジル、6.ブラック・アイズ(別テイク)、7.ハウ・ディープ・イズ・ジ・オーシャン(別テイク)

1978年12月28日 パリにて録音

原盤…エマーシー 発売…ビクターエンタテインメント
CD番号…UCCMー3003

演奏について…このアルバムの演奏&歌は、「チェット」の10代~20代の頃の非常にリリカルでナイーヴな演奏では勿論ないが、「アート・ファーマー」的な、ほのぼの系のトーンで、また優しげな歌声の歌唱は、若い頃を充分に思い出させる出来である。

特にほのぼのトーンのトランペットが聴ける演奏、5曲目「ブルー・ジル」は、まんま「ファーマー」の吹くそれだ。
バックは、ブラッシュの「ブリリンガー」、かっちり締ったベースで曲の輪郭を作る「ジェニー・クラーク」の二人の出来は良い。
そしてそれ以上に素晴らしい出来なのは、ピアノの「マーコヴィッツ」で、音を極力排除して、少ない音で空間と間を活かした極上のサポート演奏をしている。
いずれも「チェット」のナイーヴな演奏表現を、しっかりと支えている、ハイセンスなリズムセクション演奏である。
「チェット」には、申し訳無いが、トランペットレスの、ピアノ・トリオで演奏する中盤から後半部分は特に聴き物で、各人が一級の冴えを見せる。
この中では、「クラーク」のソロ、カデンツァが聴き応え抜群です。

冒頭のタイトル曲「ブロークン・ウィング」では、「チェット」による「マイルス」ばりの優れたミュート・プレイが印象的だ。
若い時の「チェット」は、リリカルでありながら、どこか憂いと、若者らしいナイフの様な鋭利さが演奏に同居していたが、晩年(50代で死んだので、実際は中年)では、当然鋭利さは無くなったが、渋さと哀愁は増しているので、「チェット」のプレイの新たな魅力が発見できて大変趣がある。
この曲でもバックの3人の出来はとても良く、「チェット」のミュートと素晴らしく一体感が取られたバラードプレイで、ワンホーン・カルテットの醍醐味が味わえる。

2曲目「ブラック・アイズ」…センス抜群のラテンリズムにのって、「チェット」が、幾分明るめのフリューゲルホーンの様な音色で、トランペットを気持ちよく吹く。
「クラーク」のガッツリベースのパワフルな音に支えられて、「ブリリンガー」はシンバルメインに、皆を煽り始める。
「マーコヴィッツ」は、やや半音を多めに使用して、「モンク」程では無いが、ハズシの和音を上手に使用して、大人の伴奏を行う。
しかし、「クラーク」のベースは良いね。
このベース、誰かとにてるのだが…わ、分かった。
第二次「ビル・エヴァンス・トリオ」のベーシスト、「エディ・ゴメス」にくりそつなんだ。
だから、良い音で、アドリブもセンス抜群なんだな。
この曲を含めて、上記3曲が、このアルバムの3大聴き物(演奏)でしょう。

3曲目…「オー・ユー~」では…昭和歌謡の様なイントロ部分から、退廃的なムードたっぷりの「チェット」のヴォーカルが堪能できる。
老いたとはいえ、リリカルな面影は残っていて、中途のトランペット・プレイにも、まだまだ繊細さを持ち合わせている。
この曲ではピアノの「マーコヴィッツ」は、「デューク・ジョーダン」の様なクラシック的な正統的なピアノソロを取り、ベース「クラーク」とのインタープレイには、痺れますよ。
「チェット」のスキャットは…グリコのおまけみたいな物かなぁ。

4曲目「ハウ・ディープ~」…この演奏も序奏は、似非「ファーマー」的な演奏ですが、しかし、この音色、アドリヴ…嫌いじゃないですね。
むしろ好きでさえある。
中盤からは、カルテット4人の演奏に力が入り、「チェット」にしては、かなりブリリアントで、パワー充分のアドリブを吹いて、とても気持ち良い演奏です。
ピアノは殴る様なブロックトーンで、ドラムも全曲中、一番バスドラを効かす演奏で、ベースもぶいぶい言わせるので、ここでの演奏は一言で言うと「硬派」です。

いずれにしても晩年の「チェット・ベイカー」も悪くは無いです。