シュラフにもぐってすぐに、大きな雪崩の音。「ドッドッーン!!」。思わず起き上る。こんな時にすぐに眠りにつけるような大胆な人間ではない。むしろ頭は冴えわたり色々な事を考え続ける。当たり前だ。目の前で4人もの人が雪崩で犠牲になったのだから。
朝方になって少しうとうとし始めたが、救助作業で大汗をかいたせいで体が濡れていたようだ。冷えてしまって眠りに入れない。結局そのまま朝が来てしまった。元旦。比較的小降りになった雪の中、撤収作業を始めた。準備を終えみんなで写真を撮り悪夢の槍平を後にする。
歩き始めてすぐ昨夜の現場の前に来ると、助かった徳島岳人クラブの二人が雪の中に立っている。帰る人達みんなに挨拶するためのようだ。涙ぐむ女性の顔を見ただけでこみ上げてきてしまい、「頑張ってください」と声を掛けるのが精一杯だった。二人はこの先、どんな山との付き合い方をしていくのだろう・・・
先行していた若者二人の付けたトレースで楽に歩けたのは、ほんの20分ほど。感傷に浸っている場合ではない。ここから命がけの下山が始まったのだ。先頭はザックを置いてラッセルをする。スピードが遅くなったため、気がつくと下山者十数人が列になっている。「ドッドッドーンッ!!」。後方で大きな雪崩。雪煙で一時谷の上方全体がガスったように真っ白になる。昨夜の事を思えばどこでくらってもおかしくない。交代した先行パーティーの一人がGPSを持っているようだ。
「山側にあがり過ぎてます。もっと下の方へ!」
「谷の方に行けるわけないだろ!。行きたい人は勝手に行けばいい!」
「でも少しずれ過ぎてると思います」
「山では丁寧語で話す必要なはいっ!」・・・?
もうみんな必死なのだ。自分のパーティーには初心者がいたために落ち着いて指示してあげなくてはいけない。そういう気持ちが働いていたためか、比較的冷静でいられたと思うが、それでも必死なのはかわらない。また前方で大きな雪崩が起きた。いつの間にか下山者の人数が20人前後に増えている。人が増え群集心理が働いたためか、ルンゼ内でワカンの紐を結び直している大バカがいる。誰かがどなりつけているが声が届かないようだ。自分達は樹林帯や太い木の下で待機しては、タイミングをみて早足で危険地帯を通過することを繰り返していた。早足といっても深い雪の中、ルンゼ通過には10分や20分は掛かってしまう。間隔を開けた他パーティーに救助される可能性が高いとはいえ、本当に生きた心地がしなかった。また前方に雪崩だ。おそらく滝谷付近だろう。滝谷手前のルンゼでは氷化した雪面の通過に苦労して時間が掛かる。シリセードで一段下まで滑り降りて通過した。もう少し頑張れば滝谷避難小屋というところで、前方から登ってくる人達がみえた。7・8人くらいだろうか。救助隊だ!「救助隊ですか?」「はい、お疲れ様です」。こんなところで出会うととても心強く感じる。やがて避難小屋につき、とりあえず一息ついた。なんとか危険地帯を無事に通過できた。
白出沢を渡ったところでワカンを外し、行動食を口にして、本当に助かったと思えた。新穂高ではテレビカメラを向けられたり、数人の記者から質問をされたりしたが、何も答える気になれなかった。
GWに剣の源次から下山して薬師の湯で暖まっていた時、同行メンバーの知り合いが入ってきたので挨拶だけ交わした。かなりのベテランクライマーらしい。見た目も精悍な感じでいかにも登れそうな雰囲気だ。この人はこの5ヶ月後、ダウラギリにチャレンジしているすごい人。救助している時は全く気がつかなかったが、亡くなった4人の中にいたらしい。会ってから8ヶ月後に彼の遺体を小屋に引き上げる事になるなんて・・・
-今回の山行では、あってはならない大変な事故が起こってしまいました。今でも夢の中の出来事のように感じますが、間違いなく現実です。尊い4名の方の命と引きかえに、現場に居合わせた我々はものすごく貴重な体験をしました。山を続ける人間として彼等の死を無駄にしないように、二度とこのような事が起きないように、それぞれの立場で出来るだけの行動をしていかなくてはいけないと感じています。この事故が自分の中で風化しないように、ブログには自分が目にし感じた事をそのまま記しました。 お亡くなりなった4名の方のご冥福を心よりお祈ります-
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まっちーさん、記事を読んで本当に驚きました。
まさかあの雪崩事故の現場にいらしたとは…。
僕はMMほかいつもの面子で涸沢岳西尾根に入る予定でしたが、荒天&日程的にタイトだったので諦めました。
正月にTVで事故のニュースを聞いたとき、「あんな場所で雪崩れるなんて…」と、何とも言えない気持ちになりました。
斜面があればどこでも雪崩れるとは言いますが…。
まっちーさんたちが樹林帯にテントを張ったのは、何か理由があったのでしょうか?
自分達が張った場所が空いていなければ南面に張っていた可能性は十分にあり、今回の事故は運が悪いとしかいいようがないかもしれません。奥丸山側の斜面からテン場まで上空からの写真だと近く見えますが、実際はかなり距離があり、まさか雪崩が到達するとは思えなかったからです。
あの天気で山に入る人間はある程度の覚悟を持って入山してると思います。南岳西尾根や中崎尾根、涸沢岳西尾根にも停滞せずに入っていったパーティーもあります。安全を優先するなら、やはり入山すべきではないのでしょうね。でも・・・
引っ越しおめでとうございます。色々と残念な出来事が多いなか、明るい話題ですね。今年は知ってる人達みんながもっともっと明るい話題で一杯になる事を期待したいですね。今年もよろしくお願いします。
>実際はかなり距離があり、まさか雪崩が到達するとは思えなかったからです。
岐阜県警の救助隊の方も、そのように仰っていたそうです。
山で100%の安全を確保するのは、難しいということでしょうか。
>ある程度の覚悟
そうですね。妻子ある身でどこまで突っ込めるのか(突っ込んでいいのか)、常日頃から考えています。
>引越し
どうもありがとうございます。早く荷物を整理してホームボルダーを設置したいです(笑