SpiMelo! -Mie Ogura-Ourkouzounov

L’artiste d’origine Japonaise qui mélange tout sans apriori

(続き) 巨匠の話。

2022-03-24 20:30:00 | Essay-コラム
木管フルートを演奏するMax Cillaさん。

(前回のブログはこちら。)


しかし、ブルガリアのアコーディオンの巨匠ペーター・ラルチェフさんがそうだし、マルティニークの伝統フルート奏者マックス・シラさんもそういう感じがするのだけど、その道の巨匠は、「自分」と「他人」という垣根さえも取り払ってしまう。


例えば自分の音楽を作曲する、他人の音楽を演奏する、といった時にはそこに「それぞれの利益」が生まれてしまったりして、例えばそれは私が「自分の曲の作曲に忙しいから他の人の編曲はやりたくない」と思った壁のある心理であったり、演奏家に対して高圧的な作曲家や、自分に曲を書いてもらうために媚を売る演奏家とか、それは人間の当然の心理だし、先ずは強烈なエゴがあることこそ芸術の源なのだ、という相反する真理もあるのだけれど、

こういう巨匠と一緒にいると、そもそもそこに私とあなた、私の音楽、あなたの音楽、という垣根がなく、「私達が一緒に音楽をすることが使命なのだ」という感覚になる。そもそもどこにも「私」の音楽のために、などというエゴが存在しない。


きっとこの人たちはただ本物の音楽をやる使命のみを信じているんだ。


ペーターさんが「私があなたを信じていることを、もっと信じなさい」と、謙遜することさえエゴであると啓示したのと同じように、マックスさんのアレンジを引き受けた瞬間も、彼の存在がその使命を啓示したからであり、そこにはどこにも損得勘定はない。私は直感的にそれを分かっていた。


私はこの音楽を伝えなければならない、理由はないけどただそれが分かる。


本当の巨匠は、どこにも驕りがなくて、その存在だけで、このエゴに溢れる世界から一次元世界を引き上げてくれるのだ。


この世界にいて、別世界と繋がっているこんな人たちと出逢え一緒に演奏できることに、とてもとても感謝したい。


やっとアレンジが全曲終わって分かったのは、私がもっと深くこの音楽を理解するために、それは必要だったということだ。


じゃないと、マックスさんとの出会いは単なる表面的でエキゾチックないわゆる「出会い」だけで終わっていたのかも知れない。


カリブ海のアンティーユ諸島というところは、アフリカ音楽とラテン音楽が混ざり合った「アフロ・ラテン」の音楽が基調だ。その中で島の歴史によって、色んな差が出てくる。マックスさんの出身地はフランスが支配したマルティニーク島であり、領主フランスが地元の音楽を禁止するなど、いろんな確執を経て、それでも伝えられてきた音楽なのだそうである。


私がアレンジしたマックスさんの曲は


-Danse des bambous バンブーダンス


底抜けに明るい、これぞカリブ!な曲。

簡単そうに聴こえるのに、実際にアレンジするとかなり強固なストラクチャーや面白い和声進行が隠されていて難航。そこがマックスさんの個性であると思われる。


-L’habitation Rochelle ロシェルの住人


知らないけど、音楽から感じられるのはおそらく「ロシェルの住人」に何かが--例えば殺戮とか災害など--が起こったのだろう。

時々フルートが泣いている様な哀しげな表現をする。


フルートの感動的な冒頭の祈りの部分は、シンセサイザーとパーカッション、ハープで色付けしているハーモニーを、フルートオーケストラによる色々な奏法で置き換えてみた。一体どんな音がするのか経験がないので、私自身も合わせ当日のお楽しみ。その後、パーカッションとマックスのフルートのトランスで祈りが昇華、浄化される。


この曲はマックスさんに「これやりましょう!」と提案したほど、私が一番好きな曲である。


-Réminiscence レミニッサンス〜回想〜


典型的な70年代的なラテンジャズで、こういう曲は単純に見えて懐が深いので、どのような即興をしても全部素晴らしく鳴ると思う。けど実はきっと即興でどこまでも高みを極めることが出来るのも、こういう曲の醍醐味なのだ。コルトレーンカルテットの黄金期のモード奏法のように。


ところで、マックスがこのコンサートに連れてくる2名のパーカッション奏者の動画を、同僚Cが「ヤバいで!」というメッセージ付きで送ってきたのだけど、それが、本当にめちゃくちゃヤバい!!こんなとんでもなくすごい人達と演奏できるの?!リズム狂の私としては、興奮冷めやりません!


私がこのコンサートのために書いた曲のプログラムノートは、次回のブログに書きますね。


(次回ブログに続く)



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