いつも相方とコンサートをやらせて頂いてもう5年になるブルガリア・プレーヴェンのギターサマーアカデミーで、今回は、初めて講習会の即興クラス講師として招いていただいた。
その講習会に「創作」のクラスを長年やっている先生がいて、その人が「自分の授業では生徒たちがどのようなものを欲しているのか感じながら組み立てるので、毎回何が出てくるか分からないんだ」と言っていた。最終的には先生が上手くそれぞれのやりたいことをまとめて、インスタント的な作品にしてコンサートに臨む。その先生のやり方にこれまでみんな馴染んでいたから、対して私が即興クラスでどういう教え方をし、どのようにコンサートをやるのか、みんな興味津々だったようだ。
集団的な音楽創作系クラスは私のパリの音楽院でも知っているけれど、こういうやり方では、先ず生徒の意図を尊重する。私の場合はまずスタイルを徹底的に学ぶところから入るから、最初の段階では、生徒の意図は事実上入る余地はない。
私の役目は、箱(枠)を提供すること。
そして生徒や自分自身を、音楽に対しどれだけ透明にさせられるか。
箱の中にどれだけ質の良い材料を、バランス良く、先入観を廃して提供できるか。
そして、生徒たちと自分を、(自分自身が、これが大事)いかにエゴを排して透明な感性でそれを受け入れられる体勢にするか。
それから、その箱がいっぱいになった時に、初めてそれぞれの個人的な本来の創造性が溢れてくる。
その箱は、すぐにいっぱいになる子もいれば、何年も何年も経っていっぱいになる子もいる。
大きな何でも入る箱を持った子もいれば、小さな間口の深い箱の子もいる。
それは人の数だけバリエーションがあるから、一括りにして教えるのが一番危険だ。
私のパリのクラスでは、色んなスタイルを勉強しながら、唐突に完全な自由即興に持っていく。
そこで初めて箱から出たlibération (自由)の感覚が分かる。自由とは、ただ自分の意思を示すことや、無茶苦茶にやることとは違うから。
自分の意図だと自分で思っていることって、案外表面的なものだと思う。
そして多分、私が一番大事だと思うのは、生徒それぞれが自分のキャパの崖っぷちで演奏させること。
それを「リスクを負う」という。個人個人ののリスクを最大限まで押して、「自分はこれ以上無理」という極限のところで演奏させること。
__ただしこれにはバランスが大事で、個人のキャパを明らかに超えたところではただの無茶苦茶な演奏になるし、恐怖感や警戒心があるところに無理をすると、その子の感性を壊すことになるので、それぞれがどういう場所にいてどれだけオープンになっているのかを把握することが私のとても大事な役目になる__
フランス語でPrise de risque、リスクを負ってない演奏は、どんな楽器であれ、どのような楽器レベルであれ、私には興味がない。
それをやって初めて「何故自分には現時点でそれが無理なのか?ではどうやったらそれを乗り越えられるのか」と成長するきっかけになると思う。
楽器の技術の限界?精神的なブロック?アイデアの行き詰まり?アウトプット(表現)とインプット(勉強)のバランスは?
それは、私自身がいつも演奏の度に考えていることでもある。
講習会期間がは一週間と短かい。私が選んだ題材はブルガリアの9拍子のダンスと、キューバの複数のリズムエレメントで組み立てる音楽。それぞれの音楽のスタイルとテーマを学び、それらが含む素材を使って即興演奏するところまで持っていく。
リズムは?アーティキュレーションは?メロディーラインの特徴は?フィーリングは?音列は?和声は?文化背景は?サウンドは?楽譜は使わず耳と身体のみをフルに使うことで、それぞれの素材を短期間で体感し理解し、自分の感性でそれらをいかに引き立て料理するか。
それらを理解するほどにそれらを引き立てることが出来る。
私自身がそれらをどのように感じ理解しているか?を即興演奏で示すことで、説明や音源だけよりもずっと説得力を持って伝えられる。
ファイナルコンサートの後、生徒たちが「どうだったんだろう?自分達の演奏はこれで本当に良かったと思う?」「これから一体どうやって即興の勉強を続けたらもっと良くなる?」と???に溢れて、みんなとても興奮気味だった。単なる「上手に弾けました、楽しかった、めでたしめでたし、まる。」で終わらなかったのが素晴らしい。
即興に正解は無いし、それはいつだってオープンクエスチョンなのだ。
私にとって彼らの「崖っぷち」が聴けたのが何より嬉しかった。
私自身も、崖っぷちの慣れない言語で(今回は下手な英語とカタコトのブルガリア語)授業できたことで、自分のやっていることがより自分にもクリアーになったと思う。
色んな国で色んな楽器で是非やりたいな。
10月から11月にはついに4年ぶりに日本行きが実現するので、インプロヴィゼーション(アドリブ)講座をご要望の方は、ぜひお知らせください。宜しくお願い致します!
PS 次なる即興プロジェクトは9月開始、なんとついに、、、
フルオーケストラを巻き込みます!
現在それに向けオーケストレーションを全力で学習中。続きは次回ブログにて、お楽しみに!
終わりのないプロセス?