心理学オヤジの、アサでもヒルでもヨルダン日誌 (ヒマラヤ日誌、改め)

開発途上国で生きる人々や被災した人々に真に役立つ支援と愉快なエコライフに渾身投入と息抜きとを繰り返す独立開業心理士のメモ

手元にある家族心理療法文献(日本語)

2006-01-17 03:20:03 | 
今回のドミニカ共和国での家族心理療法の技術支援は、残り2ヶ月あまりとなり、終了に向かっています。そこで、家族心理療法と、その周辺の基礎知識などの、概念の明確化や整理のために、今回手元に置いていた日本語文献を、原著の出版年の順に紹介してみます。

1.アウネータ・ディゼリクセン ヨアキム・イスラエル 編 岡崎晋 訳、1983、「性の科学-セクソロジー」、彩流社

原著は1973年コペンハーゲンの出版。
「性行為は、あらゆる他の人間の行為のように、人が成長・生活する精神的、社会的条件によって決定されている。性的諸現象や性的諸問題の議論が、人間の現実や社会の現実から分離されるならば、その諸現象の本質は曖昧にされ、その問題の解決は妨げられる」と、訳者は内容を紹介しています。
性行為ばかりではなく、その行為が現れる発生学・解剖学・生理学基礎や、性的発達の精神的・社会的環境などの諸条件についても述べ、性交の生理学や、同性愛・不干渉・インポテンツ・売春・ポルノなどの今日の諸課題、産児制限・性行為感染症・性犯罪・性教育などの対応策などを、述べています。

2.スーザン・ヘンドリック クライド・ヘンドリック 著 斉藤勇 監訳 上村仁司 訳、1998、「恋愛・性・結婚の人間関係学-親密関係の社会臨床心理学ハンドブック」川島書店

原著の初版は1983年、その新版1992年の翻訳である。社会心理学者と、カウンセリングを専門とする2人の研究者により、親密な関係・魅力・親和と友情・愛・性愛・求婚関係・結婚関係・離婚と再婚などの現実的な問題を、先行研究を紹介し、実証的、また臨床的にアプローチしています。

3.フィリップ・バーガー 著 中村伸一 信国恵子 監訳、1993、「家族療法の基礎」、金剛出版

原著の第1版は1981年イギリスで出版され、これは第2版1986年の翻訳です。著者は、精神科及び小児科教授です。
教科書的に、家族とは・家族療法とは・アセスメント・治療の原則・方法・適応と禁忌・教育と研究・参考文献などを紹介し、基本的治療モデルや隠喩の有効な用い方などの実践的な内容についても触れています。

4.マイケル・E・カー マレー・ボーエン 著 藤縄昭 福山和女 監訳、2001、「家族評価-ボーエンによる家族探究の旅」、金剛出版

原著は、1988年の出版で、家族システム理論の創始者ボーエンの理論を、弟子のカーが解説しています。日本側の訳者は、ソーシャルワーカーです。

「治療技術ではなく、家族理論の基礎学」を述べ「通読には忍耐と努力が必要」と、監訳者の藤縄昭は紹介しています。確かに困難ではあれ、「家族とは何なのかを考えることなしに、治療的支援はない」はずです。
それで、ボーエンの「援助過程では、専門家の視点でナゼを追及せず、いつ・どこで・なにを・どのようにという、強迫的ともいえるデータの収集が展開される」(P.398)といいます。
自然システム論・情動システム・個体性と一体性・自己分化・慢性不安・三角形・核家族の情動システム・複世代の情動過程・症状形成・家族評価の各章があります。

5.トム・アンデルセン著 鈴木浩二 監訳、2001、「リフレクティング・プロセス-会話における会話と会話」金剛出版

原著は1991年出版ですが、1987年には論文の形で理論は紹介され、注目されていました。翻訳では、著者の意向で、新たな技法の発展に鑑み、削除と挿入が行われました。

リフレクティング・チーム・アプローチは、「鏡の裏側にいるチーム・メンバーが面接の途中、熟考した面接場面に対する考えを、面接者と家族がいるところで披露し、面接者と家族の思考の転換を促し、新たな物語を構成し、自らの解決方法を協働して編み出す」方法です。
ベイトソンらの認識論から影響を受け、ナラティブ・セラピーや、アンダーソンらのコラボレィティブ・アプローチへ影響を与えた、ポスト・モダンと称される、社会構成主義的治療理論です。

ここまでの人手をひとつの治療場面にかけることを、ぼくの経験した現場で実現することは、経済原則上、とても困難としか思えないという読後感が第1。
そして、こうした交錯した助言が飛び交う治療場面に耐えられるには、治療者のパターナリズムと、それから自由な自我を持つクライエントの、双方が必要と感じました。
自我が、相互に従属的ではない、対等に存在しうる社会の成熟が、背景に必要と思いました。ポストモダンとは、そうした社会の先取り理論なのでしょう・・・

6.スティーブン・J・ウォーリン シビル・ウォーリン 著 奥野光 小森康永 訳、2002、「サバイバーと心の回復力-逆境を乗り越えるための7つのリジリアンス」、金剛出版

原著は、精神医学の臨床教授で家族療法研究者と、児童発達や学校不適応を専門とする心理家との夫婦による、1993年の出版です。
リジリアンス resilience は、「回復する力、苦難を超えて自分自身を修復する力(原著者)」をさし、「脆弱性の正反対に位置」し、「洞察・独立性・関係性・イニシアティブ・創造性・ユーモア・モラルの側面がある」とする、病理よりも現在に焦点を当てる、回復重視の立場の概念と言えます。

7.サルバドール・ミニューチン WY・リー GM・サイモン 著 亀口憲治 訳、2000、「ミニューチンの家族療法セミナー-心理療法家の成長とそのスーパービジョン」、金剛出版

原著は1996年。訳者は、ミニューチンの翻訳書としては4冊目に当たり、ミニューチン家族療法道の集大成と言う。

第1部は、3人の著者による、家族療法理論と、治療介入的モデルの説明。
第2部は、8人の訓練生が、スーパービジョンの経験と、それが臨床実践に与えた効果について記しています。

8.ハーレーン・アンダーソン著 野村直樹 青木義子 吉川悟 訳、2001、「会話・言語・そして可能性-コラビレィティブとは?セラピーとは?」金剛出版

原著は1997年の出版で、翻訳は原著の半分強といいます。
「実証主義、科学主義に代表されるモダンの思考から、解釈学、社会構成主義に代表されるポストモダンの思考への移行を訴えている。臨床心理学と文化人類学、セラピーと民族誌を書くのでは、受けとめ方は(が)根本的であったことは共通している。(訳者あとがき)」。

新しい意味を感じ取れるよう、クライエントの語りを促進し、臨床家自身も、その関係の中に生きようとする・・・こうした裏表のない、臨床のスタンスは好きです。
ただ、心理臨床が実証科学であろうとすることとの相克が続いていくのでしょうね・・・
心理臨床初学者の方々は、くれぐれも、先行諸学説の学習の上の態度であるということをお忘れなく・・・

9.日本家族研究・家族療法学会 編集、2003、「臨床家のための家族療法リソースブック-総説と文献105」、金剛出版

学会編集の、総説と文献紹介。


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