SENTIMENTAL JAZZ DIARY

感傷的ジャズ日記 ~私のアルバムコレクションから~

PAUL BLEY「NOT TWO, NOT ONE」

2008年04月20日 | Piano/keyboard

ポール・ブレイはなかなか手強い人だ。
そんなに難しく考えなくてもいいような気がするが、一度難しく考え出したらきりがない人なのだ。
前衛的といえばその通りかもしれないが、いたってオーソドックスな面もあって一筋縄ではいかない。
要するに自分に正直な人なのではないかと思う。
彼はその時々のインスピレーションを大切にしながら、そのひらめきを音に置き換えていく作業を黙々とやっているのだ。だからインスピレーションが乏しい時の彼の演奏はどうしてもつまらなくなってしまう。まぁこれがこういう芸術家肌のピアニストの宿命なのかもしれない。

このアルバムは旧友でもあるゲイリー・ピーコック(b)とポール・モチアン(ds)という最高のパートナーに支えられ、彼のインスピレーションが次から次へと湧き出した類い希な作品だ。
この作品はソロ・ピアノとトリオが効果的に配置されている。
ソロ・ピアノではあの名作「Open To Love」を彷彿とさせる耽美な透明感を感じるし、トリオでは3人がまるで楽器を通じて言葉を交わしているようなインタープレイが味わえる。名人芸とは正にこのことだ。
この作品の場合、どの曲がいいかなどということを記するのも憚るのだが、強いていえばソロピアノは5曲目の「Vocal Tracked」、トリオは10曲目の「Don't You Know」が優れた出来ではないかと思う。

この作品は、音楽を聴いているという感覚よりもコンテンポラリーなアート作品を観ているような感覚に近い。
従ってこういう音を素直に受け入れられない人も多いだろう。
それはそれで結構。無理して聴くこともない。ポール・ブレイやECMが好きな人だけじっくり目を閉じて聴けばいい。
ただ、受け入れられた人には研ぎ澄まされた感性が備わっているのかもしれないということを忘れてはいけない。
単純に自分の物差しでいい悪いを決めつけてしまう人は器の小さい人である。
もちろん〈理解する〉のではなく〈感じる〉ことに意味があるのだから、くれぐれも無理は禁物なのだ。
ジャズはただ楽しく聴くためだけのものであってもいいが、感じられるようにもなるとますます面白い音楽なのである。