SENTIMENTAL JAZZ DIARY

感傷的ジャズ日記 ~私のアルバムコレクションから~

DOMINICK FARINACCI 「BESAME MUCHO」

2007年07月26日 | Trumpet/Cornett

いきなりのバラード、これは彼の自信の現れだ。
ドミニク・ファリナッチはウィントン・マルサリス以来、久々に登場した天才トランペッターである。
傾向としてはクリフォード・ブラウンに似て、よく歌うトランペットを吹く。ただブラウンよりもやや甘い感じだ。優しいという表現の方がいいかもしれない。
バックも控え目に彼を盛り立てる。このバランスがアルバムの共通するコンセプトだ。
これによってファリナッチのトランペットが見事なコントラストを得て色っぽく浮かび上がる。実に明快な作品だ。

タイトル曲がそうであるように、この作品はラテンフレイバーに染まっている。全編に渡って哀愁が漂っているのはそのせいだ。
以前もお話ししたが、私はラテンの曲が大好きだ。
2曲目の「Caminamos」、4曲目の「Besame Mucho」、6曲目の「Libertango」など、どれもこれも絶品で、とても冷静に聴いていられない。本当にこれが二十歳そこそこの若者の演奏かと思ってしまう。
しかしそれ以上にグッとくるのは8曲目の「Nostalgia」である。
この曲はいわずとしれたファッツ・ナヴァロの名曲だ。いわばトランペッターの登竜門的な曲なのだ。
あのリー・モーガンもデビューアルバムでこの曲を取り上げ、存在感を誇示していたのを思い出す。
この曲でファリナッチは、ピーター・ワシントンのベースだけを相手に静かな吹奏を見せる。「う~ん、こうきたか」といった感じである。この冷静さも彼の特徴の一つだ。

彼がデビューした時の衝撃はマルサリスの時に勝るとも劣らない。
両人ともかなりのインテリであることもオーバーラップする原因だ。
但しマルサリスの場合はインテリであったがために離れていくファンも多かった。トランペッターとは時に感情の赴くまま爆発することも必要なのだ。
ファリナッチにはマルサリスと同じ道を行ってほしくない。若いうちはもっと熱くなれ、と妙なエールを贈っている。