辛口でずっしり重いアルバムを聴いた後は、こんな対極にあるアルバムはどうだろう。
あまりの軽さに羽を広げてふわふわと飛んでいってしまいそうな作品である。
こんなことを書くとポール・スミスに怒られそうだが、昼下がりに聴くと間違いなく眠くなる。強烈な睡眠薬だ。だから私は朝に聴く。目が覚めてこれをかけるとこれが何とも爽やかなのである。こんなジャズがあってもいい。
なぜ眠くなるかということだが、それだけ頭の中がリラックスしている証拠である。その原因が特異な楽器編成であることに最近気づいた。
フルートとアルトサックスの組み合わせに柔らかいセミアコのギター、これなのだ。これが室内楽のように品のある高級サロンの印象を与えているのである。ここは聴いているこちらもその気になって背筋を伸ばす。
ジャズはもともと気楽な音楽ではあるが、このアルバムだけはフォーマルな出で立ちで臨みたい、そんな気にさせる音なのだ。
ポール・スミスといえば、歌伴の名手でもある。
エラ・フィッツジェラルドの名作「IN BERLIN」でも確かな伴奏を見せているのでファンも多いはずだ。
彼のピアノがこれまたエレガントなのである。このアルバムでも「A YOUNG MAN'S FANCY」や「ALONE TOGETHER」、「YOU AND THE NIGHT AND THE MUSIC」などなど、確かな指先で甘いメロディを艶やかに奏でている。
彼のテクニックは相当なものだ。それはところどころで聴くことのできる独特な節回しからも感じることができる。しかし彼はそれを一切ひけらかそうとはしない。常に全体のバランスに気を配っている。
要するに彼はピアニストとしてよりアレンジャー向きの人であり、バンドリーダーとしての才能を高く評価すべき人なのだ。
このアルバムはじっくり聞き耳を立てて聴くというような類のものではなく、ムードで聴く一枚である。
これほどジャケットのイメージが内容とオーバーラップする作品も少ない。
甘いシャンパンが口の中でとろける感じだ。