カフェボヘミア、一度でいいから行ってみたかったクラブだ。
ニューヨークのグリニッジビレッジにあったこの店は、1950年代中期から後期にかけて僅か数年間しか開業しなかったジャズクラブだったと聞く。その短い間に様々なプレイヤーがここでアルバムの録音を行った。
有名なのはアート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャースやジョージ・ウォーリントン・クインテットあたりだが、このケニー・ドーハム率いるジャズ・プロフェッツのステージも忘れられない出来事としてジャズ史に残っている。
彼らメンバーに派手さはない。
ケニー・ドーハム(tp)の他、J.R.モンテローズ(ts)、ケニー・バレル(g)、ボビー・ティモンズ(p)、サム・ジョーンズ(b)、アーサー・エッジヒル(ds)といかにも渋い面子が揃った。
針を落としてまず最初に聞こえるのが「モナコ」というドーハムのオリジナルだが、このイントロ、どこかで聴いたことがある。そう、キャノンボール・アダレイ(実質はマイルス)の「サムシンエルス」に収録された「枯葉」のイントロとよく似ている。
このアルバムが録音されたのが1956年5月だから、「サムシンエルス」が発表される前ということだ(「サムシンエルス」は1958年3月の録音)。つまり、マイルスはちゃっかりこのイントロをパクったのではないだろうか。
そういえばこのカフェボヘミアにはマイルスのグループもよく出演していたようだから、この場にマイルス本人がいたとも考えられる。単なる偶然かもしれないが、それにしてはそっくりだ。たぶんそうだろう、そうに違いない。
「モナコ」に続く演奏が「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」。マイルスの十八番といってもいい曲だ。彼らの演奏はマイルス・クインテットに負けていない。こちらは逆にドーハムがマイルスの演奏を意識しているように聞こえる。
同じトランペッター同士のこうした駆け引きが実に面白い。
別に自慢するわけではないが、ジャズを心底楽しむためにはそれなりにリスナーとしての経験が必要だ。
古いジャズのアルバムは一枚一枚、何かしらの曰くがあると思っていい。
そのプレイヤーやプロデューサーの人間性が見えてきて初めてその音楽が理解できるものなのだ。
【また明日から出張です...】