木道が延々と続く森を抜けて、広い高原の牧場に出た。
木のゲートを通ると右手にレストランが見えたので、私はそこで食事と休憩を取ることにした。
ドアを開けて窓際のテーブルに座り、パスタと搾り立てのミルクを注文した。
周りを見渡すと入口のすぐ横にオーディオのセットがあったが、よく見るときれいに手入れされた真空管アンプが一番上に置かれていた。
真空管アンプはなぜか音が優しい。コーヒーにクリームを入れたようなまろやかさだ。
かかっているのはパット・メセニー・グループの「TRAVELS」だった。こんな牧場にはぴったりの音楽だ。このアルバムにはどこまでも続く緑の大地に、風が吹き抜けるようなメロディがたくさん詰まっている。
特に私が好きなのは1枚目のラストを飾る「Farmer's Trust」という静かな曲だ(このアルバムは2枚組)。この曲はとてもライヴだとは思えない繊細さに仕上がっており、パットのナイロン弦ギターとライル・メイズの優しいピアノに、ナナ・ヴァスコンセロスが生み出す鳥の鳴き声のような効果音がうまく絡んで深い感動を生んでいる。
この曲を聴きながら食事ができたことに何ともいえない幸せを感じた。
いい気分で食事をとることは心身共にとても大切なことだと思う。
あの時のミルクの味は未だに忘れられない。真空管アンプのお陰で、もともと柔らかいミルクの味までまろやかだった。