jazz and freedom and avenger

勝手気ままな戯事日記 暇つぶしに・・・・

㊙ 愛聴盤 ・・・・・ BREAKTHROUGH & DEBUT IN BLUES / GENE SHAW

2024-05-12 | ジャズ・tp

ガイド・ブック等で紹介される歴史的名盤を始めとする名盤の類だけではジャズの「奥深さ」を計ることは出来ない。今回の二枚は、名盤群とは対岸以上、遥かに離れた作品だが、なかなか味が有ります。

ジーン・ショウはマイルスと同じ1926年(6月)、デトロイトに生れ、tpを吹き始めたのは二十歳位からと、当時としてはかなりの奥手です。なんでもガレスピーを聴き、「この位、オレにも吹けるぞ」と、大ほらを吹き、仲間から「何、バカな事を!」と叱責され、相当凹んだそうです(笑)

ショーがジャズの表舞台に登場したのは、ミンガス・バンドの‘TIJUANA MOODS’(RCA・57年)と‘EAST COASTING’(BETHLEHEM・57年)ですが、傑作と誉れ高い”TIJUANA MOODS”は、ワケあって5年間もお蔵入りの憂き目に遭い、名の浸透が大幅に遅れてしまったようです。そうした不運を乗り越え、ショー、36歳になってやっと初リーダー作としてリリースしたのが、この”BREAK THROUGH”(ARGO)。荒れ果てた雑居ビルの窓からtpを吹くカヴァが意味するものは、タイトルそのものです。

 


演奏スタイルは、所謂、ハード・バップですが、一般的に連想するゴリ味とチョット異なり、独特のアーバン・テイストをたっぷり含んだノリの良い演奏です。でも、甘さに流されない所が、ミンガス・バンド出身のショーの真骨頂ではないでしょうか。
ショーのtpは音色からして地味な部類に入り、大別すれば、例えば、ハバード、モーガンのようにブリリアントで華やかなプレイではなく、むしろマイルス、ドーハム系のタイプで、妙に聴き手の感情を擽りますね。
そうした彼の特長が、この初リーダー作で全開している。また、どこまでもコルトレーン・マナーを貫き通すモリソン(ts)の好プレイも聴きものですし、シンプルながら洗練されたテイラーのpも不思議な魅力があります。

まず、一発目、テイラーのオリジナル・ブルース‘Autumn Walk’で殺られてしまう。‘Autumn’を感じさせるショーのtpと‘Walk’をイメージしたモリソンのtsとのブレンドが実に心地よいです。二曲目以降もソフィスティケートな好曲、好演が続きます。それにしても、まったく無名のモリソンのtsって、ホント、Gooですよ。驚きです!

そして、本盤のキラー・チューンは、ラスト・ナンバー、”It's A Long Way”、ワルツ・ビートに乗って、ショーが揺れながら呻くようにメランコリーなソロを吹き、続いて、コルトレーン本人でも真似できないほど切なくも、やるせなく歌い上げるモリソンのts、そして、センチメンタルなテイラーのp、もう痺れっ放し!!! 完全にノックアウトです。

続いて、

 

ARGOの本拠地、シカゴって行ったことがないけれど、どんな町なんだろう? このレコードを聴くと、忽ち爽やかな「風」が吹き始め、シカゴまで乗せていってくれる気分になる。町全体がソフィスティケートな雰囲気に包まれ、本作の主人公であるショーがオーナーでもあるナイト・クラブ兼スクール‘Old East Inn’のように、粋なジャズが街角のいたるところで流れているようなそんなイメージが湧いてくる。今まで持っていたちょっとアーシーなイメージとはまるで正反対です。

本作が録音された63年と言えば、「モダンジャズ・灼熱の時代」のはず。そんな時、これほど都会的センスに満ちた演奏がされていたとは、驚きを隠せない。しかも、ショーといえば、一癖も二癖もあるミンガス・グループの出身を考えるとなお更である。

タイトルが示すように、全8曲、ブルージーでありながら洒落た演奏が繰り広げられる中、蠱惑(こわく)的とでも言うのだろうか、ショーのtpのトーン、吹き方にぐんぐん引きずり込まれてしまう。ライナーノーツでJOE SEGALはジーン・ショーをデトロイト時代(ショーの生れ故郷)は‘mellow-toned trumpeter’と解説しているが、その後、こうしたオリジナリティのあるスタイルを身に付けたのだろう。
相当な訓練を求められるアレンジの妙、そして共演者の好演、中でも薄味ながらソウルフルなテナーを聴かせるJ・ピータース等々、聴き所も多い。

前作の”It's A Long Way”同様、ラスト・ナンバー”Traverog”でのショーのか細く途切れそうなプレイが聴き手の感傷を激しく刺激する。両作ともラストに決め球を用意するとは、いかにもショーらしいですね。ショーのオリジナリティ溢れる妖しい世界に酔い、溺れるのも、またよし!

ショーはともかく、他のメンバーもほぼ無名で、今更「知られざる名盤」と盛るつもりはありませんが、メジャー、三大ジャズ・レーベルからは生まれないサウンドが実に心地良い。