有田芳生の『酔醒漫録』

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大竹しのぶの「ロマンス」

2007-08-22 10:27:24 | 人物

 8月21日(火)世田谷パブリックシアターの客席に座っていると、遠く20代の日々が思い出された。あれは渋谷のロシア料理店のロゴスキー。約束の時間に大竹しのぶさんは一人でやってきた。食事をしながら話を伺ったのだが、何とも不思議な時間だった。撮影者も記録者もわたしだけ。二人で数時間を過ごし、路上でわかれたときのシーンもよく覚えている。それが二度目の出会いだった。初対面は山本薩夫監督や原田美枝子さんたちとの座談会でのこと。まさかインタビューに一人でやってくるとは思いもしなかった。それから四半世紀。井上ひさしさんの「ロマンス」でチェーホフの妻などを演じる大竹さんを観ていて「すごいな」と思った。あのころの大竹さんはただただ真っすぐに進むだけだった。それがいまや変幻自在。女優の成熟を見たようでとてもうれしくなるのだった。映画の試写会で簡単な会話を交わしたこともあるけれど、舞台を観ていると、いつかちゃんとしたインタビューをしたいと思うのだった。井上ユリさんから「いいですよ」と言われていた舞台は本当によかった。2時間45分の舞台。そこにチェーホフの人生と文学論がまるまる描かれている。松たか子さんの輝き。段田安則さん、木場勝巳さんの安定。そして何よりも生瀬勝久さんの演技が光っていた。地下鉄とJRを乗り継いで家人とともに御徒町。さかえ寿司で中村美彦さんと一献。電車のなかで「ロマンス」のパンフレットを読む。かつてチェーホフの書斎を訪れた井上さんは、机のへっこみをなでたとき、こんな声が聞こえてきたような気がしたという。「どんなときでも希望を持つこと」。チェーホフは44歳で亡くなっている。