エル・フィシャウィー・カフェは、ハン・ハリーリで一番賑わうカフェ。
私達は「ミラーのカフェ」と呼んでいる。
店の内外に大きな鏡が掛けられ、不思議な空間をかもし出す。
夜のカフェは居酒屋のように賑わっているが、革命前と比べると空席が目立つ。
今日は「苺のコクティール」をオーダーしてみよう。
しばらくすると、グラスにびっしり詰まった苺のシロップがけが運ばれてきた。
きらきら光った真紅の苺が美しい。
娘と仲が良いへナのタトゥー師が、声を掛けてきた。
しばらく娘と話をして、立ち去ろうとしたので「タトゥーやってもらったら。」と娘二人に勧める。
この女性の描くタトゥーテクニックは、ハン・ハリーリ界隈では一番。
客のリクエストを聞き、魔法のような手際で強弱をつけたアラビアン文様をサラサラと描いていく。
今度は幼い数人の子ども達がテーブルにやってきた。
驚くことに夜の9時過ぎである!
カフェの客達に、ティッシュ、花の首飾り、落花生…を売って歩いている。
一人の可愛い少女が嫁を気に入り、傍から離れない。
他の子ども達が来ると「私の友達だから、来てはだめ!!」と威嚇する。
一見屈託がなく明るい子ども達だが、目の奥には悲しい色が宿る。
教育を受けられない、満足な食事が与えられない、幼い頃から労働力の一端を担っている、
世界には、そんな子ども達が多く存在することは知っていた。
しかし、こんな少女を目の当たりにすると、不条理に腹が立ち、やるせない気分になってくる。
非力な私達の頬に何度もくれた、別れの可愛いキスの温かさが忘れられない。
私達はここから立ち去ってしまうが、この少女は逃れることが出来ないのだ。
明日も、明後日も花の首飾りを売って歩くのだろう。
いつか、目覚め 逆境を跳ね返し 自立の道を歩いてほしいと心から思う。
今宵も、エル・フィッシャウィー・カフェの大きな鏡たちは、人々のいろいろな人生を映し出しているのだろうか。