王家の谷の近くにハトシェプスト葬祭殿がある。
植物ひとつ生息しない岩山に囲まれたこの葬祭殿は、
見事な建築美の階段を持ち、野外の大舞台のような美しく気品がある遺跡である。
ハトシェプストはエジプト王朝史上唯一の女性のファラオであった。
当然ジェンダーのこの時代。彼女はファラオとしての権力を得るため、女性を捨て男装をして付け髭をつけた。
彼女の行った政治はエジプト王朝の数あるファラオの中で最も平和的政策を用いたといわれている。
今まで行われてきた戦争による略奪の道ではなく、貿易という手段を用いて国を栄えさせた。
好戦的で人の命を軽んじる男性のファラオより、知的で有能な政治家であったといえる。
現在、女王の功績を讃えた壁画などは、あまり残存していない。
なぜなら次の王トトメス3世が多くを削りとらせてしまったからである。
そして再び戦いによる愚かな政治がエジプト王朝の終末まで、らせんのようにくり返されていく。