このところ葉室氏の著作を集中的に読んでいる。
人間如何に生きるべきか、封建社会にあっては「武士の矜持」などの普遍的なテーマに真正面から向き合う作風が気に入っている。
この小説は「小説トリッパー」に09年秋季号から10年春季号まで連載されたものだが、直木賞を受賞した「蜩ノ記」などと比べると習作の域を出ない。
物語~日坂藩士で郡方の筒井恭平は、3年ぶりに江戸から帰国したが、直後に、少年時代薫陶を受けた青葉村塾の恩師梶与五郎が何者かに殺される。この死に疑念を持った幼馴染で同窓の穴見孫六が隣藩に探索に入るが、間もなく彼も惨殺体となって発見される・・・
藩境をめぐる隣藩との争いが元となった殺人事件を、サスペンスタッチで描いているが、登場人物にもかぎりがあり、同氏の後の作品には遠く及ばない。