仙台を中心にマタギなど、硬派な物語を書き続けて来た熊谷氏ですが、この本を読むかぎり、その境地から脱して、いよいよエンターテイナーの仲間入りを果たしたという感じがします。
つまり、例えば、ジャンルの違いこそあれ藤沢周平氏のように、一般庶民の日常の何気ない暮らしを文字にして、読者を唸らせる小説家として一流の域に達したということでしょう。
高度成長期の東北。消え行くものと新しく生まれるものとが混在する時代に、不安と期待を抱きつつ生きる地方の人々の日常を描くことによって、現代の何たるかを問う表題作など8話の短編集です。
読書の楽しさやすてきな物語を、思わず誰かに語ってみたくなるようなすばらしい一冊です。ご一読をお勧めします。