徒然なるまままに

展覧会の感想や旅先のことを書いてます。

生誕100年 靉光展

2007-04-15 | 絵画
生誕100年 靉光展
2007年3月30日から5月27日
東京国立近代美術館

靉光(本名:石村日郎、1907-1946)(AI-MITSU)の生誕100年を記念する展覧会。

いつも常設展に展示されている《眼のある風景》1938年を見て、強烈な印象を受けながら何を描いているのだろうと、不気味に思っていた。

概要で、「1924(大正13)年に上京し、中村不折らが指導する太平洋画会研究所に通うようになる」とあった。一寸調べると、下記の太平洋美術会のhttp://www.taiheiyobijutu.or.jp/ryakusi/p_ryakusi.htmに「明治22年小山正太郎、 浅井忠等によって創立された「明治美術会」は同35年 「太平洋画会」と改称し、当時の洋画会の新人満谷国四郎、吉田博、中川八郎、石川寅治、石井柏亭、大下籐次郎、 丸山晩霞等により、 同年3月上野公園第5号館において第1回展を開催しました。 こののち日本近代 美術史の曙を拓いた人々です。明治37年には谷中清水町に洋画研究所を開設し、 翌年同研究所を真島町に移して後進の育成に努め、更に昭和4年には研究所を太平洋美術学校と改め (初代校長・中村不折)官立の美術学校と対抗して、当時、在野における唯一の存在として幾多の英才鬼才をわが国洋画壇に送りました。 」とある。中村不折とは、書の収集家であることを書道博物館で知り、作品も近美に常設展示されているのですが、そのような画家とは、はじめて知りました。

そして、「「池袋モンパルナス」と呼ばれた界隈で仲間たちと切磋琢磨しながら、自らの画風を模索していきます。」とある。「池袋モンパルナス」とは?仲間とは?よく判らない。現在、板橋美術館で館蔵品展「池袋モンパルナスの作家たち」の展覧会が開催されているようだが、「今から80年ほど前、池袋、板橋、練馬付近にはアトリエ付きのアパートが立ちはじめ、若い芸術家たちが集まりました。住人の一人、小熊秀雄はこの界隈の詩を詠んで「池袋モンパルナス」と名づけました。ここでは、麻生三郎、寺田政明、井上長三郎、古沢岩美をはじめとする画家たちが、戦争や貧困の中でキュビスムやシュルレアリスムなど外国の表現を自由に解釈し、独自の芸術を探求していました。政治的、社会的な圧力にも負けず、画家たちは希望に満ちた時代と独自の芸術を明るく捜し求めていたのです。彼らの前向きで積極的な姿は、社会不安の押し寄せる現代を生きる私たちが見直すべき姿だと言えるでしょう。」とある。興味深いのは、寺田農(俳優)の父は 寺田政明という画家だったということ。知りませんでした。

閑話休題。

「第1章 初期作品」では、ゴッホやルオーに影響された作品が展示される。
  • 9 コミサ(洋傘による少女) Komisa (Girl Leaning on an Umbrella) 1929(昭和4)年 油彩・キャンバス 広島県立美術館
  • 10 屋根の見える風景 Landscape with Roofs 1929(昭和4)年 油彩・キャンバス
    コサミはルオー風、屋根の見える風景はゴッホ風。

    そのあとに彼が試みた、「ロウ画」と呼ばれる溶かしたクレヨンなどによる作品が並ぶ。《編み物をする女》1934年(愛知県美術館)ほか、諧謔的な味わいのデフォルメされた小品群。これは、お勧め。
  • 15 キリスト(赤) Christ (Red) 1932(昭和7)年 グワッシュ、墨・紙
  • 18 馬 Horse 1933(昭和8)年頃 グワッシュ、蝋・紙 メナード美術館
  • 21 女 Woman 1934(昭和9)年 グワッシュ、クレヨン、墨・紙 広島県立美術館
  • 20 乞食の音楽家 Beggar Musician 1934(昭和9)年 グワッシュ、墨・紙
  • 19 編み物をする女 Woman Knitting 1934(昭和9)年 グワッシュ、クレヨン、墨・紙 愛知県美術館
  • 23 自画像 Self-Portrait 1934(昭和9)年 グワッシュ・紙 スズカワ画廊

    「第2章 ライオン連作から《眼のある風景》へ」では、上野動物園に通ってさまざまな動物をスケッチしたという彼の作品がならぶ。結実したのは、
  • 34 馬 Horse 1936(昭和11)年 油彩・キャンバス 東京国立近代美術館
  • 35 眼のある風景 Landscape with an Eye 1938(昭和13)年 油彩・キャンバス 東京国立近代美術館
    「馬」のほうが、馬の原型をとどめているのが、極端にデフォルメされた画面は不思議な印象。タッチの力強さとは対象的な馬の弱弱しさ姿。動物と向かい合って感じた様々な印象を、訴えかけてくる。そのようにして、 「眼のある風景」を見れば、これは、シュルレアリスムの傑作というよりは、動物園の目の前に広がった風景そのものです。

    「第3章 東洋画へのまなざし」では、虫や鳥が見え隠れする濃密な幻想世界が繰り広げられる。個人的には趣味ではないが、強烈な印象。

    一方、
  • 80 末広一一氏の像 Portrait of Mr. Kazuichi Suehiro 1941(昭和16)年 水彩、墨、鉛筆・紙 広島県立美術館
  • 81 畠山雅介氏の像 Portrait of Mr. Masasuke Hatakeyama 1941(昭和16)年 水彩、墨、鉛筆・紙 広島県立美術館
  • 82 娘 Girl 1941(昭和16)年 水彩、墨、鉛筆・紙 広島県立美術館
    の3点では、この画家の別な面が覗く。背景がない人物像は、確かな筆致。戦前の日本人のきりっと座す空気が伝わってくる。

    「第4章 自画像連作へ」では、戦争激化にともない、逮捕者がでるなど、前衛的な表現が取り締まりの対象のなかでの作品。

  • 108 かます Barracuda 1943(昭和18)年 油彩・キャンバス 財団法人ウッドワン美術館
    の折れ曲がって描くところなど、変節する自分自身の投影でしょうか?

    そして最後に召集まえに描いたという自画像3点。
  • 111 帽子をかむる自画像 Self-Portrait Wearing a Cap 1943(昭和18)年 油彩・キャンバス 広島県立美術館
  • 112 梢のある自画像 Self-Portrait with Treetops 1943(昭和18)年 油彩・キャンバス 東京藝術大学
  • 118 自画像[白衣の自画像] Self-Portrait Dressed in White 1944(昭和19)年 油彩・キャンバス 東京国立近代美術館
    顎をあげ、上官に向かって起立したような姿。デフォルメされた頭部の輪郭。空を見つめる姿。孤独、絶望、あるいは力強さ、未来への意志など様々な解釈できると解説されているが、悔しさがいっぱいの表情に、つい涙に誘われました。

    (15日)









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